絵本講師による「絵本講座」が必要とされているのはなぜでしょう。
NPO法人「絵本で子育て」センター®理事長
森 ゆり子
超少子化の時代、絶対的な需要の減少により危ういと言われていた育児市場も子ども一人にかける費用の増加によって、いまだ“不況に強い市場”として安定しているようです。
そのような中で、「便利育児グッズ」ともいうべき新しい商品が次々と開発されています。
また、幼児教育についても低年齢化が進み、ビデオやパソコンなど様々なメディアを駆使した教材が出回っています。ゆたかな時代になりましたが、反面、一種の危惧を感じてしまいます。
活動を通じて、多くのお母さん方と出会いますが、子どもとどう接して良いのか分からず困惑し、苦痛さえ感じている方が増えてきたように思います。
虐待を含む子どもたちにかかわる悲惨な事件が頻発し、社会全体に不安感を与えています。
便利保育グッズにしても幼児教育にしても、子どもとどう接すればいいか分からないところからくる焦燥感、不安感を物質的な面で補完しようとする一つの手段になっているような気がしてなりません。果たしてこのままで良いのでしょうか。
自分の子どもに物質的な充足感を与え、それで何となく、「わが子のために何かしてあげた」という気持ちになってしまうのです。また、その気持ちを深く探っていけば、親自身の欲求・欲望に行き当たることは想像に難くありません。物質的な豊かさは大いに結構です。でも本当は、それ以前に与えなければいけない、もっと大切なものがあるのではないでしょうか。
乳幼児期の子どもにとって、最も身近な存在である親と触れ合うことは、これから人生を生きていくうえでとても大切なことなのです。お母さん、お父さんの肌や声に包まれ、心から安心できる「子どもの時間」を過ごすことによって、子どもは自分がかけがえのない存在であることを確認し、同時に他人を大切にしようという気持ちが芽生えていくのではないでしょうか。昔は当たり前のように行われていた親子の心の交流が、現代社会において失われつつあるように思われます。
子どもたちの心を育てるのは、決して「モノ」ではありません。心を育てられるのは“こころ”だけなのです。私たちは、そんなお母さん方に絵本を使った子育てをお勧めしています。毎日、たとえ一冊でも、たとえ数分でも、お膝で絵本を読んであげることによって、自然と親と子が肌を触れ合わせ、心を通わせる時間が生まれてきます。そうした時間の積み重ねこそが、子どもの心を育む一番の栄養素なのです。
現在、様々な便利育児グッズが売り出され、私たちを助けてくれています。ただ、その“便利さ”とは、親が子どもに関わらなくても済むということも意味しています。楽だからいいよね、と簡単に手に取ってしまう前に、少しだけ考えてほしいのです。その便利さによって、逆に失われてしまうものがあるのではないだろうか、ということを。
親に向かって子どもたちが懸命に伸ばしてくる手が、本当に求めているのは「何か」ということをお母さん、お父さんの心に尋ねるのが、私たち絵本講師の役目なのです。
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