第16期絵本講師養成講座

報告者
おか みさお
東京5期
勝村 美幸
第3編 〜 絵本講座について 〜
2019年9月28日(土)、飯田橋レインボーホール
主催:NPO法人「絵本で子育て」センター
協賛:アリス館・岩崎書店・偕成社・金の星社・こぐま社・鈴木出版・童心社・福音館書店

第16期「絵本講師・養成講座」 東京会場 第3編

第16期「絵本講師・養成講座」東京会場 第3期が2019年9月28日(土)飯田橋レインボービルにて開催されました。寒さ暑さも彼岸までと言われるものの、会場周辺はまだまだ夏を終わらせまいと蒸し暑さの残る一日でした。  

飫肥 糺 氏 午前の講演は、批評家でエッセイストの飫肥糺先生により「題材が証していく絵本の主題」というテーマでお話いただきました。先生は、今日の凶悪犯罪はニュースにも取り上げられるように、親子間や祖父母と孫というような、血縁関係の間で起きることが増えている事に触れられ、『ぼくにげちゃうよ』(M、W・ブラウン=文 C・ハード=絵 ほるぷ出版)をお読みくださいました。うさぎのぼうやが「ぼくにげちゃうよ。」と言えば、母うさぎは「おかあさんはこうやってお前をつかまえますよ。」と繰り返す、子と母の関係を2ページで語っていくこの絵本には1942年という、もしかしたら今よりゆっくり子どもと向き合える時代に、「親子(母子)とはこういうものだ」というテーマを作者は描いたのではないだろうかと語られ、70年を越えて尚愛されるこの絵本から、母と子のあたたかな関係を描いたこの絵本が語る愛のかたちをお話しくださいました。

 また、『だるまさんが』(かがくい ひろし=作 ブロンズ新社)をお読みくださった時には、七転び八起きの象徴として丸くて厳めしいイメージの達磨さんが、まるでお餅のように表情豊かに伸び縮みする柔らかな絵と、擬音も耳に楽しい言葉で紡がれるこの絵本にすっかり引き込まれ、会場からはクスクスと笑いも起きて楽しみました。先生は、「先入観を離れ、多様性を尊重していくことの楽しさ」をお話しくださり、お釈迦様の弟子として長年重ねられたの苦行の姿から七転び八起きの象徴とされた達磨大師像を破って、多様性を尊重していくことの楽しさを教えてくださいました。

  続けて『よっ、おとこまえ!』(いがらし あつし=作 絵本塾出版)を読んでくださいました。主人公である擬人化されたトウモロコシ達が掲げる“男前”になる夢は、美味しく食べてもらうこと。食べられたら死んでしまうけれど、その為に精一杯かっこよく生きて、夢を叶えて死ぬ。人は生まれた瞬間から死に向かって生きているというともすれば重く暗くなってしまうかもしれない哲学的なテーマを、パワフルでノリノリな絵と文に乗せてさらりと描くこの絵本の“男前”なかっこよさを教えてくださいました。

  『森のおはなし』(マーク・マーティン=作 おびただす=訳 六耀社)オーストラリアの作家が描くこの絵本は、何千年もかけて成長した森を人は伐採し、都市化し、結果災害に見舞われ人が住めなくなり、またそこに一本の木が芽吹き、木は林になり森になりというシンプルなストーリー。飫肥先生が翻訳もされているこの絵本は、地球の抱える環境問題に目を向けたくなる作品でした。折しもこの夏は大型の台風が例年と違うルートを通り、先生のお住まいの千葉県にも大きな被害をもたらし、国連総会では、グレタ・トゥンベリさんが行動力の伴わない世界の大人に対し悔しさを露わに演説した地球温暖化対策においてのスピーチとも重なり、子ども達に残す未来を考える私たちにも強く響くお話しに受講生も真剣なまなざしで聞き入っていました。

吉井康文氏

  午後は、こぐま社の社長もされた吉井康文先生が、「絵本の絵を読む魅力と大切さ」と題しご講演くださいました。吉井先生は、絵本の魅力や読み聞かせの大切さについて、受講生へ伝えたいという強い思いにあふれ、沢山の絵本をご持参くださり、また、申し訳ないことに鈍ちんな私にはメモが追い付かない程に、沢山のお話を次々と聞かせてくださいました。受講生は、そんな熱心なご講演に、ぐいぐい引き込まれ、ご紹介くださる絵本の魅力に前のめりで聞き入っておりました。

 その沢山のお話の中から、メディアにより便利になったことは目に見えるが、失われていったものは目に見えないというお話をしてくださり、今年5月に世界保健機構(WHO)で国際疾病として正式に認定された「ゲーム障害」について触れ、今年内閣府が発表した青少年のインターネット利用環境実態調査の結果からもわかるように、スマホなどを含めたネット利用が、0歳児ですでに6.1%もあるなど、大人には便利になった反面、子どもたちが置かれている現在の環境に、「ゲーム障害」がパチンコなどのギャンブル依存と同じ精神疾患で認定されようとしている今日において、危機感を募らせて聞かせていただきました。

 また絵本の魅力である、スキンシップ、読んでくれる人の肉声、読み手と聞き手のアイコンタクトの大切さをお話しくださり、『ゴリラのあかちゃん』『かおかおどんなかお』など紹介してくださいました。ほかにも、『またもりへ』『あまがさ』『あおくんときいろちゃん』『ぐるんぱのようちえん』『おやすみなさい1・2・3』等などなど、沢山それぞれの絵本の魅力をお伝えくださいました。

 受講生にとっても、身近によく読み聞かせしている絵本、また初めて出会う本、様々な角度から興味深いお話を聞かせていただけたのではないでしょうか。

 そして、講演後には事務局より「絵本講師・養成講座」の学び方についてのお話と、グループワークでした。みなさんグループ毎に活発に交流されていてお互いの日常での絵本との関わりやお気に入りの絵本紹介、またそれを通しての意見情報交換などをされているなど、積極的で、明るい雰囲気が伝わってきました。

(かつむら・みゆき)勝村 美幸


東京会場第3編
(東京会場第3編 会場風景)

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