第15期絵本講師養成講座

報告者
中田 朋子
東京7期
中田 朋子
第2編 〜 絵本講座について 〜
2018年09月22日(土)飯田橋レインボーホール
主催:NPO法人「絵本で子育て」センター
協賛:アリス館・岩崎書店・偕成社・金の星社・こぐま社・鈴木出版・童心社・福音館書店

司会 中村利奈 第15期「絵本講師・養成講座 東京会場第3編」が2018年9月22日(土)、飯田橋レインボービルにて開催されました。

 午前中は、「絵本の可能性」と題して、吉井康文先生の講演でした。 まず初めに、『あたごの浦』(脇和子・脇明子/再話、大道あや/画、福音館書店)を読んでくださいました。普段、子どもたちにも読まれているそうです。『あたごの浦』に状況が似ている絵本ということで、『またもりへ』(マリー・ホール・エッツ/ぶん・え、まさき・るりこ/やく、福音館書店)と、その前の作品の『もりのなか』を紹介してくださいました。1ページずつ、詳しくお話してくださり、その時代背景が内容に反映されていること、登場するうさぎが最後まで特別な存在であること、そのウサギは発達障害の子どもをあらわしているのではないか、木の「うろ」が象徴的に書かれている、木の「うろ」はどういう意味をあらわしているのか?など、1冊をとても詳しく話してくださり、非常に興味深かったです。

 『もりのなか』は1944年、アメリカで戦争中に描かれたもので、『ポケットのないカンガルー』(エミイ・ペイ吉井康文氏ン/さく、H.A.レイ/え、にしうちミナミ/やく、偕成社)も同じ年に出版されました。欧米では戦争中にハンディキャップを取り上げ、子どもにそれを読むことができる状態があったということで、アイデンティティを大事にしている絵本と、ハンディキャップを持っている人が書いた絵本や、ハンディキャップを持っている人が主人公の絵本なども紹介してくださいました。

 日中韓「平和の絵本プロジェクト」として創作されながら、日本ではなかなか出版されなかった絵本、『花ばぁば』(クォン・ユンドク/著、桑畑優香/翻訳、ころから株式会社)を紹介してくださいました。元日本軍「慰安婦」の証言をもとに作られた絵本です。日本で出版しようと、絵本作家の田島征三さんが出版社を探し、韓国での刊行後8年経ってようやく出版されたそうです。

 コミュニケーションが取れない子が増えている一つの原因が発達障害である。発達障害に関して正しい知識を身に着ける必要がある。ということで、たくさんの参考図書を紹介してくださいました。

 児童虐待の相談件数は、昨年は約13万件で、年々増え続けている。愛情が足りなくておきる後天的な障害もある。厚生労働省の発表では、ネット依存93万人と危機的問題である。この辺をよく考えないといけない。
 コミュニケーションで大事なことは スキンシップ、アイコンタクト、肉声だと考えている。これが、今できてない、希薄になっている。というお話でした。そして、『クシュラの奇跡』(ドロシー・バトラー/著、百々 佑利子/訳、のら書店)を紹介して下さいました。染色体異常による重複障害を持って生まれたクシュラの両親がしたことは、抱きしめること、絵本を読むこと。その後、知識は健常者と同じにまでなり、短命と宣告されたクシュラは現在も生きておられるはず、というお話でした。

 そして、これは奇跡ではない、と別のエピソードも紹介してくださいました。生まれつき脳の障害があり、コミュニケーションがとれなかった子が、『しろくまちゃんのほっとけーき』(わかやまけん/さく・え、こぐま社)を読んで反応した。絵本は好きじゃないと思っていたけれど、今まで興味のある絵本に出会わなかっただけだった。すっかり絵本好きになり、今では国語力は高いと先生に言われている、ということでした。

 何かの形で役立つ、何かが変わっていく。心をこめて作っている絵本たちと出会って、生まれるものがある。そこに可能性があると信じていきたい。というお話でした。

 絵本作家がどのように絵本を作っているのか、絵本作家の思い、そして親が子を思う気持ち。いろんな思いが、絵本を読むことで、絵本の力としてあらわれてくるのだと思いました。

飫肥糺氏

 午後は「こんな絵本を読み語りたい」と題して、飫肥糺先生の講演でした。犯罪は減っているけれども、身内、親子、家族間の犯罪が戦後最大になっている。そして、科学技術が発達し、たいていのことはAIができるようになってきた。優れた科学技術を駆使する人が、普通の人間であってほしい、人間が生き物であるということを忘れてしまうと、大変なことになる。私たちにできることは何か? 子どもを普通に育てること。健全な心を鍛えてくためには、一つに絵本がある。というお話でした。

 

 まず、『からすのパンやさん』(かこさとし/さく・え、偕成社)の紹介でした。カラスは子どもをとても大切にし、カラスにはカラスの町、暮らし、家庭があって、自然の一員として生きている。「人間は、どうなんだ?と投げかけてくれているような気がする」という飫肥先生の言葉が、とても重く感じました。

 最近の子どもは、突飛な夢を言わなくなってしまった。子どもには自由に生きる権利がある。大したことができない中で絵本を一緒に読むことはできる、ということで、『わゴムはどれくらいのびるかしら』(マイク・サーラー/ぶん、ジェリー・ジョイナー/え、きしだえりこ/訳、ほるぷ出版)を読んで下さいました。

 『ガンピーさんのふなあそび』(ジョン・バーニンガム/さく・え、みつよしなつや/やく、ほるぷ出版)では、今の大人はガンピーさんになれない人が多くなってきた、というお話で、ガンピーさんのように子どもに接することができれば、子どもも夢を持ち、のびのびと育っていけるはずで、ガンピーさんは理想の親、大人象なんだと感じました。

 そして、『平和ってどんなこと?』(ウォーレス・エドワーズ/さく、おび ただす/やく、六耀社)を紹介してくださいました。「平和」ってなんだ?と思うことが必要で、平和を一言では言えない、だから、考え、投げかけ続けることが必要。問いかけを毎日子どもたちと一緒にやる。一人一人が自問しながら、平和な社会に参加していく、作っていく。というお話でした。

 世の中が平和でなければ、子どもたちは将来に希望がもてず、夢をみることもできない。だからこそ平和を考え続ける必要があるということを、改めて考えさせられました。

 『ちびゴリラのちびちび』〈ルース・ボーンスタイン/さく・え、いわたみみ/やく、ほるぷ出版〉は、父と母、家族が子どもを愛するだけではなく、地域、社会全体もそうであってほしいと、60年前の絵本が語っているというお話でした。

 飫肥先生が紹介して下さった絵本は、これから絵本講師として何を伝えていったらいいのかを考えさせてくれる絵本だと感じました。 講義 池田加津子

 グループワークでは、講演の感想や、課題について、熱心に意見交換をされていました。

次回第4編は、11月17日(土)です。ともに学べる時間を、とても楽しみにしております。

 

 

 

(なかた・ともこ) 中田 朋子


東京会場第3編の講座風景
(東京第3編の講座風景)

第15期「絵本講師・養成講座」
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