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報告者
報告 吉田佐知子
東京7期生
吉田 佐知子
〜 本物のことばをきく 〜
2014年5月17日(土) 飯田橋レインボービル
主催:NPO法人「絵本で子育て」センター  共催:ほるぷフォーラム社
協賛:岩崎書店・偕成社・金の星社・こぐま社・鈴木出版・童心社・福音館書店・ほるぷ出版・理論社

本物のことばをきく

講演 松居直氏  第11期「絵本講師・養成講座」(東京会場第2編)が5月17日(土)、飯田橋レインボービルにて開催されました。会場に面する外堀通りの桜並木の緑に、初夏の日差しがまぶしく輝いていました。

 司会の大久保広子さん(東京5期)の流れるような語り口の進行で講座が始まりました。
 
 本日の講師、松居直先生が壇上に上がられました。松居先生は、福音館書店の創業に参画され、現在は相談役でおられます。

 皆さんご存じの通り、絵本と、絵本についての著書をたくさん執筆されています。私も先生のご著書は何冊も読んでいましたが、講演をお聞きするのは初めてでしたので、この日を心待ちにしていました。

 講演は、「生きる」ということについてのお話から始まりました。 「現在の最大のテーマは『今日、そして明日をどう生きるか』ということ。
 18歳まで、子ども時代のほとんどを戦争の中で生き、『生と死』の死についてだけを毎日考え、国の為に死ぬことが最高の生き方であると言われて育ってきた。
 生きるということについては、誰も教えてくれなかった。ふたりの兄を戦争で亡くし、終戦を迎えた時には、喜びなどはまるでなく、ただ死ななくても良くなった、と感じた。
 戦争が終わっても、生きるということの意味がわからず、どう生きたらよいのかわからなかった」、と語られました。

 私たちには想像しえない、戦争を体験された先生の深い「生」への思いが命を軽んじる傾向にある現代であるからこそ、更に深く胸に響きました。
 そして、トルストイの『戦争と平和』と、同志社大学での聖書の講義が、生きるということの意味を教えてくれた、と続けられました。

 「大学で、『生きる』ということについての聖書の講義を聞いた時、身体が震え、光に包まれ、気持ちが震えた。それは初めて『ことばをきく』という本物の体験であった。その時に『きいた』ことばは、今も胸に刻み込まれている。
 ことばは、目には見えないもの。大切なものは目には見えない。見えないものをきく、という体験を人間はしなくてはならない」と語られました。

 さらに、家庭で親の口から子へ語ることの重要性について、お話は続きました。 「絵本は、子どもに読ませるものではなく、大人が読んでやるもの。家庭で、本物のことばを親が語ってやることで、本物の心とことばが育ってゆく。
 ことばが、子どもの心に親の愛を伝え、いつまでも残ってゆく。私たち大人は、子どもの『きく』ということについて、もっと深く考えなくてはならない」

講演風景 松居直氏 機械音、騒音語に囲まれている現代の子どもたち。生きたことばからでないと、子どもの心もことばも育ちません。本物の「きく」体験をされた先生の語られることばはひとつひとつ重みをもって、胸に刻み込まれました。

そして、先生の編集された『おおきなかぶ』(内田莉莎子訳、佐藤忠良画、福音館書店)などを例に出され、「絵本に描かれた絵はことばを絵にしたもの、絵に豊かなことばがある」と語られました。私は、大人が絵本を読み、子どもはそれを耳で聞き、目で絵を読む。それこそが絵本の読み方である、と再確認しました。
 

  家庭で親と子が共に絵本を読むことの積み重ねが、子どもの生きる土台をつくってゆく。先生の育った時代背景をお聞きしたことで、現代の日本の情勢を大人である私たちが正しく把握し、こんな時代だからこそ、絵本を通じ子どもに何を伝え、語ってゆくか、そして子どもをどう守り育ててゆくか、改めて考える必要性を強く感じました。絵本の持つ力について、先生から直に教えていただけたことは、たいへん深い学びとなり勇気となりました。今日の学びを今後の絵本講師活動で語り継いでいきたいと思います。

講義・藤井勇市  そして、午後からは、藤井先生のリポートについてのお話、そして本日のグループワークの課題である『いないいないばあ』を中田朋子さん(東京7期)が読まれました。読み聞かせ 中田朋子

中田さんの穏やかなお人柄があらわれる優しい読み聞かせでした。

 


 続いてグループに分かれ、一人ずつ『いないいないばあ』を読み、感想を述べ合いました。 「絵にインパクトがあり、語りかけてくる」「子どもと会話も楽しめそう」「リズムが読み手によって全く違う、だからこそ面白い」「大勢に向かって読むよりも、我が子を膝に抱いて語りかける絵本だと思う」など、多くの意見が出ました。
グループワーク風景 そこから話題は、絵本が紙であることの意味、電子図書との違いは何か? に発展しました。「紙のページをめくることで間や余白が生まれ、想像が広がる」「金属の枠に囲まれた電子では、絵本の広い世界観が出ない」「読んで心が動くか、動かないか重要。電子では心が動きづらい」など、活発に意見が交わされました。

  その後、お一人ずつ持ち寄った好きな絵本を紹介し合いました。その絵本への思いを語り合うことで、その方のお考えやお人柄がうかがえました。また更に皆さんが親交を深められたように見受けられました。
 聴講生としてグループに入り、皆さんの様々な絵本体験をお聞きするたびに、たくさんの気付きがあります。

 今回も、松居先生のお話をはじめ、まさに「本物のことばをきく」豊かな体験ができました。感謝します。 次回は7月26日の開催です。並木を照らす日差しも、更に強くなっていることでしょう。まもなく梅雨の季節が来ます。受講生の皆さまお体に気をつけて、またお目にかかれることを楽しみにしています。
(よしだ・さちこ)


第11期「絵本講師・養成講座」
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