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報告者
東京9期生
多々良 尚美
第4編   〜 絵本講座の組み立て方 〜
2013年11月30日(土) 飯田橋レインボービル
主催:NPO法人「絵本で子育て」センター  共催:ほるぷフォーラム社
協賛:岩崎書店・偕成社・金の星社・こぐま社・鈴木出版・童心社・福音館書店・ほるぷ出版・理論社

 第10期「絵本講師・養成講座」第4編が、11月30日(土)飯田橋レインボービルにて開催されました。
午前の部では藤井勇市先生(「絵本講師・養成講座」専任講師)の講演がありました。

まず、藤井先生のお話の中で印象に残った言葉より
「自分の考えを鮮明にするということは、相手に対する敬意である」

あいまいな言葉や行動が目立つはっきりしない世の中への“喝”ともいえる言葉! 藤井先生は、その言葉の通り「絵本講師・養成講座」の立ち上げを実践されました。
先生は家庭に言葉がなくなってきて子育てしにくい世の中を危惧され、絵本と言葉を介して人と人との関係を再構築したいとのお考えのもと、故中川正文先生(作家・元大阪国際児童文学館特別顧問)を訪ねられ「絵本講師・養成講座」での講演協力を依頼されたそうです。そのおもいを受けて、中川先生は応援してくださることになったとのこと。2004年から始まったこの講座が、今年第10期まで続いているのは先生方の熱意と本気の賜なのですね。
世の中をじっくり見据えて、子どもたちが平和に暮らすことのできる世界を考えてこられた藤井先生は、こうもおっしゃっています。
「今、生きている社会は子どもがたくさんで大人がいないんだよ。自分の無知を他人に指摘される前に、自分で自覚し誰かがしなければならないことをだまって実行するのが大人である」
我自身を振り返ると、まだまだ未熟であると自覚せざるを得ませんでした。心にぐっと突きささります。
 先生はまた「いまの情報社会において、きちんとした情報にアクセスする力が現代人は弱くなっている」と指摘され、特定秘密保護法の大きな問題を話されました。
むのたけじ先生の著書『詞集たいまつT』(評論社)の中に「はじめにおわりがある。抵抗するなら最初に抵抗せよ。歓喜するなら最後に歓喜せよ。途中で泣くな、途中で笑うな」の一文が10月26日付朝日新聞の天声人語に載っていることを紹介。そして、思想の自由、報道への自由を奪って戦争へ突き進んだ戦前の政府を彷彿とさせるこの法案への懸念。静観する人が大半の世の中でベールに隠されたことが何かを問う姿勢の重要性について語られました。
一人ひとりがしっかり考えて生きること、自分だけの世界ではないこと。自制・自戒のできる大人として、自分・家族のことだけではなく隣の人もやっぱり大事と思えること。三軒先の人とも仲良くできる親密圏の必要性……
藤井先生は幼少期まさに日本の原風景のなかで過ごされました。風のそよぎ、木々の揺らぎ、雲の流れ、おばあさんのやさしい声…その一つ一つが先生にとっての絵本でした。
よくお母さまに言われたのは“あきらめるのはまだ早い”このエールの言葉には希望と力があり藤井先生のその後の人生の気概や精神の支えとなっているのではと思います。
心に届く言葉の中には、敬意と畏怖の念を持ち続ける先生の魂の叫びが込められていました 。

午後の部では、故中川正文先生の講演会DVD(東京会場7期)の視聴がありました。先生は2011年10月13日に91歳で亡くなられましたが、絵本講座の第1期より講師として欠かさずご出講くださいました。
司会の方からのプロフィール紹介に照れながら「気を遣わなくていいよ。冊子に載っているんだから」と気さくで格好つけないお姿が印象的。たくさんの病と闘いながら、その長い人生から先生の心の言葉が紡ぎ出されます。
まず、親と子、先生と子の立場について、はっとさせられたのは次のようなお話でした。
親鸞の“弟子一人も持たずに候”“平座”の生き方を話され、人々に説法するのではなく聞いていただくという気持ちを持つこと、その中に自分を見つけ出すことが大事であると教えていただきました。
何気なく使ってしまう“与える”“下ろす”“育てる”の言葉の中に人間の傲慢な心があること。「私たちが子どもに育てられているのだよ。思い上がるな」と。
一日一日、その瞬間これでよかったかを振り返ることの大切さを語られました。
「大人と子どもは絵本を仲立ちとして、経験を分かち合い、共に成長すること」大人と子どもの関係は常に“平座”…大人としてどうあるべきか、大人のおごりや欲深さなど、できるだけそぎ落としていくところに先生の深い精神性を感じます。
また、本との関わりについて「長い長い付き合いが本当の付き合いであり、人も本も同じである」そう話されて、何度も繰り返し読める本の経験をし、その本を手元に置こう! 町内の本屋で買って本屋さんと話し、人とのつながりを築いてほしい!
本に対するあふれる愛情!! 心がポッとあたたかくなります。
先生は『すみれ島』(今西祐行/文、松永禄郎/絵、偕成社)の朗読をしてくださいました。穏やかで、ゆったりとした語り口の中に先生がこれまで生きてこられた日々の重みを心に馳せながら耳を傾けました。
すみれの花びら一枚一枚に子どもたちと特攻隊の方の命の灯が染みこんでいくようでした。号令一つで命を亡くすという辛い思いをした我々の先輩がいることを忘れないこと。平和の大切さを中川先生の御声で伝えてくださいました。
先生はこの講演のために40数枚のレポートを用意されていましたが、半分で時間切れ……あとの20枚のお話はもう聞けません。でもきっと講演最後の言葉の中にそれがあるかも。

“今日 りんごの木を植える
明日 滅ぶとわかっていてもりんごの木を植える”

お二人の講演が終わり、最後にグループワークがありました。次回のリポートの話しなど、書き方や内容について質問を交えながら進み、その後、しばし中川先生の講演内容に話が集中いたしました。回を重ねるごとに、この講座での学びの意味が深まっていることでしょう。

「絵本講師・養成講座」にとってもうれしい出版のお知らせがありました。
むのたけじさんの本で『絵本とジャーナリズム』(「絵本で子育て」センター)が発売。絵本にとってジャーナリズムの力はどう影響するのか、とても興味深い本です。
今回の講座の内容は7月26日(土)第2編のむのたけじ氏のおはなしと共通するところが多くあります。
自らの行動をもう一度見直す必要があり、大人としての生き方、社会とのかかわり方を再認識した日でもありました。
おごっていることさえ気づかないまま、時を過ごしてきた人生に、もう一度光をあててもらった気がしています。(たたら・なおみ)

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