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報告者
芦屋8期生
栗本 優香
第3編   〜 絵本講座について 〜
2012年8月18日(土) ラポルテホール
主催:NPO法人「絵本で子育て」センター  共催:ほるぷフォーラム社
協賛:岩崎書店・偕成社・金の星社・こぐま社・鈴木出版・童心社・福音館書店・ほるぷ出版・理論社

 第9期「絵本講師・養成講座」第3編が8月18日(土)、芦屋ラポルテホール特設会場で開催されました。暦の上での立秋は遠い日に過ぎましたが、この日も残暑が厳しく朝から太陽がギラギラと照りつけていました。受講生の皆さんは、汗を拭いながら来場されていました。


午前の部は、片岡直樹先生(川崎医科大学名誉教授・Kids21子育て研究所所長)が、「テレビ・ビデオが子どもの心を破壊している」と題し、映像資料も交えてご講演くださいました。
一般的に「自閉症」とは、先天的な脳の器質障害とされていますが、片岡先生は40年以上の臨床経験から、後天的に親と子の愛着形成がどこかの時点で頓挫してしまうことによって起こる――新しいタイプの言葉遅れ――の存在を指摘されています。
そしてこの「新しいタイプの言葉遅れ」に対しては予防・治療が可能であり、そのための鍵を握るものとして「音・光」環境の改善を挙げられています。「音・光」環境とは、テレビ、ビデオ、ゲーム、電子おもちゃ、また文字、数字、パズルなどの早期教育関連のことです。

これらはみな、赤ちゃんや幼い子どもの意思に関係なく一方的(作為的)に行なわれているものです。そのような刺激に長時間さらされることによって、子どもはいつしか母(父)親の声も雑音と同じようにしか感じられなくなります。その結果、子どもから言葉が発せられなくなってしまうことが起こるというのです。
会場のスクリーンに映し出された事例では、親と目を合わすこともなく、テレビに釘付けになっている赤ちゃん、そして成長しても一向に発語が見られない様子に、受講生の皆さんも驚きを隠せない様子でした。しかし、片岡先生のおっしゃる「音・光」環境の改善、つまり家庭からテレビを排除して、親子の触れ合いや語りかけを密にすることによって、徐々に言葉を取り戻していく様子も画面に表れます。
片岡先生は『エミール』(ジャン・ジャック・ルソー/著)から――人間が育つには、自然の中で育てることが大切である――ということを挙げられ、五感全体を使って育つことの重要性を強調されました。
また、ゲーム脳(ゲームによって脳の前頭前野の働きが低下し、麻薬中毒のような状態になる)についても触れられ、言葉遅れがない子どもたちでも、ゲームやテレビに囲まれている現代の子育て環境を危惧されていました。

昼食をはさんで、午後からは作家であり、劇団「天童」を主宰されている浜島代志子先生による「読み語りの楽しさ(実演)」です。
絵本を通して子どもの心情、人格を育てることが、今の日本には急務であり、そのために心に届く読み聞かせをおこなってほしい。そのためのノウハウはいくらでもお教えします、というわたしたちへのエールから講演が始まりました。
絵本は「心の食事」であり、その食材としてふさわしい「真・善・美」を伝えるものを吟味することが大切である、とおっしゃいました。
また絵本は、ひらがなで書いてあるので誰でも読めるものではあるが、それでは意味をなさない。謙虚な気持ちを持って、読み手の責任において、どのようにメッセージを伝えるかを考えなくてはいけない、とも話されました。
そういったお話に続いて、浜島先生による「見せ語り」の実演となりました。子どもの想像力・創造力から発される自由な発言を引き出し、それに応えることによって信頼関係を築くということを、わたしたちを4〜5歳児に見立て、『タニファ』(ロビン・カフキワ/作絵、浜島代志子/訳、偕成社)を題材に始まりました。
最初、受講生の皆さんは大人の殻を破れず、先生の問いかけに対して声が出ません。先生が手遊びなどを使ってわたしたちの気持ちを解してくださったおかげで、会場から徐々に「子どもたち」の楽しい発言が増えていきました。
しかし、「見せ語り」というものは、ただ楽しいだけのものではなく、子どもたちの気持ちを受け止めつつも、やはり大人が伝えたい「真・善・美」を忘れてはいけないし、時には毅然と伝えることが必要であり、それが大人の責任であると話されました。
その「真・善・美」の詰まった数々の絵本を紹介してくださり、それぞれの物語に内在する「真・善・美」というものを紐解いてくださいました。
例えば、『ねずみのすもう』(樋口淳/文、二俣英五郎/絵、ほるぷ出版)では、<愛情の深い方に、人も幸福も寄ってくるものだ>ということ、『太陽へとぶ矢−インディアンにつたわるおはなし−』(ジェラルド・マクダーモット/作、神宮輝夫/訳、ほるぷ出版)では<人が高みに行こうとするのは、世のため人のためであるべきである>ということをお話してくださいました。

午前・午後のご講演を通して感じられるのは、片岡・浜島両先生お二人の子どもへの温かいまなざしです。小児科医、見せ語りという異なった分野で永年ご活躍される両先生がともに、赤ちゃんや子どもにとって「母の声」というものが、いかに重要であるかということを述べられました。絵本の読み聞かせの意義(味)を改めて深く考える機会になったと感じています。

ご講演後は、藤井勇市代表から、受講生が出された質問への返答がありました。また、一見、絵本講師として関係ないように思われる分野についても様ざまに見聞を広め、自分の中で「何をどのように考えるのか、何を選択するのか」といった内なる作業が重要である。実際の講座で話さなくても、そのようなものをバックボーンとして持っておくことが大切である、とお話いただきました。最後に『戦後史の正体 1945−2012』(孫崎享/著、創元社)という本を紹介されました。

続くグループ・ワークでは、それぞれ講演を聴いての意見交換やお薦め絵本を持ち寄っての情報交換などが活発におこなわれていました。中にはレジュメを作成してグループのメンバーに配るなど、受講生の積極的な姿勢を強く感じました。

次回は10月20日(土)です。すがすがしい秋空のもと、再び皆様とお会いできますことを楽しみにしております。(くりもと・ゆうか)

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