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報告者
東京8期生
秋谷 恵理子
第2編   〜 読み聞かせについて 〜
2012年7月28日(土) 飯田橋レインボービル
主催:NPO法人「絵本で子育て」センター  共催:ほるぷフォーラム社
協賛:岩崎書店・偕成社・金の星社・こぐま社・鈴木出版・童心社・福音館書店・ほるぷ出版・理論社

 猛暑という言葉を超えて、ここ数年、“酷暑”と言う言葉が生まれた東京の夏――。
蒸し風呂のような夏真っ盛りの7月28日(土)に、飯田橋レインボービルにて、第9期「絵本講師・養成講座」第2編(東京会場)が開催されました。
次々と来場される受講生の皆さんの表情は、今日の講座への期待に溢れ、一様に晴れ晴れと輝いているのが印象的でした。

午前の部は、批評家・エッセイストの飫肥糺(おびただす)先生が、「3.11と子どもたち。そして、絵本のこと。」をテーマにご講演くださいました。
3.11東日本大震災から1年が経ち、1.17→9.11と同様、あの現実から距離ができ、時間の経過と共に“風化”の予兆があるこの現状を語るとき、我々が原発と言うものの「安全神話」に躍らされ、その“大きな嘘”に動かされた事で起きた、人災とも言うべき原発事故について言及しないわけにはいかない、と話されました。

――まるで戦争のような、福島の現実が、そこにはあります。
お話に続き、『おもいだしてください あの子どもたちを』(こうせい・ぶん:C.・B.アベルス/やく:おびただす/ほるぷ出版)をご紹介くださいました。この本は、第二次世界大戦下、ヒトラーの“大きな嘘”が引き起こしたナチスによるユダヤ人虐殺の事実が記された写真絵本です。ユダヤ人というだけで、多くの尊い子どもたちの命が奪われました。写真の向こうから、私たちに訴えかけて来る何かが、私たちの胸を締めつけます。
ある日突然、家を失い、故郷、学校、友人、親を失った子どもたち……。
「福島の子どもたちと一緒じゃないか!」、と飫肥先生は訴えます。
目の前を津波で流されて死んで行く人々を見てしまった現実。
自分だけ生き延びてしまった、と思う罪悪感にも似た感情。
“トラウマ”を持ってしまった子どもたちの未来……。
その言葉を噛み締めるように、受講生の方々の唇は固く結ばれました。
飫肥先生の言葉は続きます。
「様々な人災は、想像力の欠如から生まれてくる事が多いが、人は、絵本や学問を通じて学び、感じる力を養える」、と。

私たちが携わる『絵本』の力は、とてつもなく大きく、深いということに気づかされる思いがしました。また、コミュニケーションツール(PC、携帯、face‐book等々)の発達によって、人と人との繋がりが希薄になり、バーチャルな要素(会ったつもり…、話したつもり…)が強くなっている事を危惧されていました。

 現実空間で、相手を慮る関係が成り立たなくなっていることで起きる犯罪の多さも然りです。人と人とが分かり合える為には、子どもの頃の親との関係(コミュニケーション)が大事とおっしゃいます。私たちは、親としてしっかり子どもに向き合っているのでしょうか。
――不安が過(よぎ)りました。
そして、本当の豊かさとは何なのでしょうか。
――数々の疑問の中に、答えがあるように思えます。

この後は、ご持参くださった絵本
『ちびゴリラのちびちび』(さく/R・ボーンスタイン、やく/いわたみみ、ほるぷ出版)、『ルピナスさん』(さく/バーバラ・クーニー、やく/かけがわやすこ、ほるぷ出版)、『ぼくを探しに』(作/S・シルヴァスタイン、訳/倉橋由美子、講談社)の紹介があり、『ないしょのおともだち』(文/B・ドノフリオ、絵/B・マクリントック、訳/福本友美子、ほるぷ出版)、『アンジェロ』(作/D・マコーレイ、訳/千葉茂樹、ほるぷ出版)を実際に読んでくださいました。
大人になってから、誰かに絵本を読んで貰うことなどない私たちですが、飫肥先生の声を通して何かが伝わってくるという、心地よさを感じる時間を共有した思いがしました。

昼食をはさんで、午後の部は、絵本作家・とよたかずひこ先生による「電車にのってももんちゃんがやってくるー自作を語るー」というテーマでの講演です。
ご自身の私生活のお話から始まり、今現在も、近所の子どもたちの「おっちゃん」的存在として草野球に興じておられること、子育て中のエピソードなどが面白おかしく、まるで先生の作品をそのまま聞いているかのように話されます。
――先生の作品は、それらのエピソードを基に、思い出すスタイルで制作されるという事でした。

次に、紙芝居『ゴロゴロゴロン』や、絵本『でんしゃがくるよ』(童心社)を読んでいただきましたが、お話の向こうに、自転車の前後にお子さまを乗せて電車に手を振る、子育て期の先生のお姿が浮かんで見えました。
つづいて、先生の代表作でもある『でんしゃにのって』(アリス館)を読んでくださいました。
このお話は、子どもの頃に先生のご祖母(おばあさま)から語り聞いた、青森〜仙台間の駅名にまつわる駅弁売りの楽しいエピソードが基になっているということでした。ご祖母(おばあさま)の語りが、心に残っていたからこそ出来上がったというこの絵本は、人から人へのあたたかな繋がりを感じさせるもののように思えました。
今回ご持参くださった絵本の中には、制作過程で作成されるダミー(仮制作本)も入っていましたが、先生の手描きのもので、本刷りと見紛うばかりの完成度の高さに驚愕し、絵本の制作現場のシビアなやりとりを垣間見たように感じました。
絵本の紹介は続きます。『バルボンさんのおでかけ』(童心社)です。
「バルボン」という名前にしたエピソードを話されているとき、急に先生が受講生のお一人を指名し「○○君、バルボンって、どこの球団だっけ?」と質問されて驚きましたが、指名された方は、先生のご出身地宮城県仙台市での同級生とのことで、この講座で久々の再会となったわけです。人と人は、ここでも繋がっていくのでした。
と言う訳で、バルボンの名前は、当時活躍していた野球選手の名前という事も分かり、次々とバルボンさんシリーズを読んでくださる軽妙な先生の語りに、一同笑わされたり、しみじみしたり…と、すっかり子どもの気持ちになって聞き入ります。
つづいては、ありえない設定(ナンセンス)を楽しむ『どんどこももんちゃん』、『ももんちゃんどすこい』、『とうふさんがね』と、私たちを夢中にさせながら読み聞かせが続きました。
始終、心から楽しんで絵本を読んでくださる先生と、それを聞く私たちの間でのコミュニケーションの絶妙さが、とても大切な時間として成り立っているのだと気づかされた思いがしました。先生がおっしゃった、「絵本は『誰か』が読んでくれるもの。その『誰か』は、信頼関係のある者たちのことです」という言葉が心に残った講話でした。


講演後は、藤井勇市専任講師から、第1編課題リポートの講評や、質問への返答があり、続く第2編の課題に取り組むにあたり受講生の方々は、新たな緊張感を持たれたようでした。
藤井先生は、原発の問題や、人と人との関わり方についても言及され、「他人も大切である」と学ぶ必要性、そしてそれを学ぶべきところは、家庭であるとお話しされました。
また、絵本の読み聞かせにおいて、読み手と聞き手が繋がれるかどうか、共感できる空間を作れているかどうか、と問いかけがあり、「『絵本』は人と人が繋がるもの」という言葉をいただき、先のお二人の先生方からもあったように、今回の講座では「人と人が繋がる」ことの大切さを学んだように思います。

最後に、読んで欲しい本として『戦後史の正体 1945-2012』(著/孫崎享、創元社)を紹介されました。

グループワークでは、課題の絵本『いないいないばあ』(ぶん/松谷みよ子、え/瀬川康男、童心社)の読み聞かせの実践をしました。先に芦屋2期修了の絵本講師・岡部雅子さんの読み聞かせを聞き、各々の経験に基づいた読み聞かせが始まりました。本の持ち方、ページのめくり方等の違いを感じつつ、この絵本の魅力、奥の深さについても話し合い、熱のこもった学び合いの時間となりました。
次回の講座は、初秋の季節になります。また1つステップアップされた受講生の皆さまと、お会いするのが楽しみです。(あきたに・えりこ)

 

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