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報告者
芦屋6期生
中村 史
第5編   〜 絵本講座をやってみよう 〜
2010年12月11日(土) ラポルテホール
主催:NPO法人「絵本で子育て」センター  共催:ほるぷフォーラム社
協賛:岩崎書店・偕成社・金の星社・こぐま社・鈴木出版・童心社・ほるぷ出版・理論社
特別協賛:ラボ教育センター

 第7期「絵本講師・養成講座」第5編が 12 月 11 日、芦屋市のラポルテホール3階の特設会場にて開催されました。松居先生のご講演のあるこの第5編を、受講生の皆さんも、特別聴講生も、心待ちにしておりました。

 午前に、松居直先生の講演「絵本のよろこび」がありました。  

 松居先生はまず、「本というものも、読書というものも、人と人との関係だ」と話されました。先生はいつも、「絵本は子どもの読む本ではない。大人が子どもに読んでやる本だ。それが、私の編集方針だ。」とおっしゃっています。子どもの頃、絵本を読んでもらったという人たちは、読んでもらった絵本の作者は覚えていなくても、読んでくれた人のことは覚えているというお話は、まさに、冒頭の言葉につながるのだと思いました。

 松居先生が、繰り返し取り上げられたのが、言葉の問題です。言葉について、先生は次のように話されました。

 「命のない言葉があまりに多い今、教育を受ける前の子どもたちのくらしが問われます。幼児期に、どのような言葉を耳にして育ったかが大切です。

 子どもたちの日本語は、親ゆずり。言葉とは、聞いて、覚えるものです。ところが、今、聞く力が弱くなっている。子どもの聞く力を育ててやって欲しい。テレビで聞くのは、そのうちに入りません。スイスの哲学者、マックス・ピカートは“現代は機械語と騒音の時代である”ということを言っています。テレビから聞こえてくるのは、人間の言葉でなく、機械の言葉です。

 本を読むということは、言葉のよろこびです。言葉は、生き生きと語りかけてくるものであり、自分の気持ちを伝えるものです。それを知っていないと読書はできない。字が読めれば、読書ができるわけではありません。子どもの読書を考えるならば、特に幼児期、物語でなくてもよい。子どもたちが、日常生活のいろんな機会に、どんな言葉を耳にして育つかが大切です。」

 さらに、先生は「私たちは、一日たりとも言葉なしでは生きていけない。話すとき、書くときだけではない。私たちの体も言葉のかたまり。そういうことを一番実感できるのが、幼児期です。言葉の世界に入り込んで、実感として感じ取れるか、体験できるか。実感を伴った言葉の体験の一番のもとになるのが、子守唄です。子守唄の、言葉の意味ではなく、言葉に込められた母親の気持ちが赤ん坊に伝わる。そうして言葉の力が子どもの中に蓄えられていく」と話されました。

 また、石井桃子先生の“子どもの本というのは、見えるように書かないといけない”という言葉を紹介され、「最近の絵本は、絵が語っていない。言葉は、見えるように書かれていないものが本当に多い」と指摘されました。

 絵について、松居先生は「子どもの絵本は、絵が語るものでなければなりません。大人は絵本の絵を“見る”が、子どもは絵を“読む”。なぜなら、絵は言葉を表したものだから。子どもの絵本の絵にとって大切なものは、線と形と構図です。」とおっしゃっています。線や余白を活かすことについては、 12 世紀の絵巻物『鳥獣戯画』(伝 鳥羽僧正覚猷 筆)を代表に、日本は伝統的に本当に見事な文化を持っていること。この優れた伝統的な文化を伝えていくのも私の編集方針の一つだと先生は話されました。

 松居先生は、ご自身が影響を受けた本についても語ってくださいましたが、その中で、“人間にとって大切なものは目に見えない”ということを教えてくれた本として、『星の王子さま』(サン=テグジュペリ作 内藤濯訳 岩波書店)を挙げられ、「言葉は目に見えないが、目に見えない言葉が、目に見えないものを、見えるように、感じるようにしてくれる。大切なものが目に見えるように、子どもたちを育てていかないといけない。」と話されました。

 「語りかけるのもだいじだけど、子どもの言葉をよく聞いてやることもだいじ。教えるのでなく、実感できるように、日常の中で子どもに語りかけてほしい」という先生の思いは、他の全てのお話とともに、深く心に響きました。

 午後は、初めに、藤井勇市専任講師からのお話がありました。藤井先生のお話の時間は、毎回、私たちが忘れてはならない大切なことを、心に刻み、自身の姿勢を問い直す貴重な時間となっています。「学ぶということは、投資したものに対して見返りを求めるという態度とは無縁のものである」というお話があり、修了リポートについては「あらゆる人の知恵を借りて、すばらしいフレーズを借用して、自分のリポートを作成してください」と、受講生の皆さんを励ましてくださいました。

  その後のグループワークでは、皆さん、修了リポートのことも気になるようでしたが、それだけでなく、近況報告や相談、好きな絵本の紹介など、にぎやかに楽しく話されている姿が印象的でした。講座も残り一回になったことを惜しみつつ、連絡をとりあおうと呼びかけるなど、共に学ぶ仲間ならではの、深い結びつきを感じました。

 毎回、いろいろなことに気づかせていただく絵本講師・養成講座ですが、今回は、人と人との関係を大切にすることが、絵本講師としての原点でもあると改めて感じました。身近な人に敬意を持って、知り合った人と誠実に関係を築こうとする日々の姿勢を大切にしようと、自らのなすべきことも確認できた一日でした。

  次の講座は、2011年2月 26 日(土)に行われます。受講生の皆さんにとって、最終の講座であるとともに、絵本講師として第一歩を踏み出す始まりの日でもあります。 皆さんに、お目にかかれることを楽しみにしております。(なかむら・ふみ)

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