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報告者
東京5期生
松本 愛
第3編   〜 絵本講座について 〜
2010年7月24日(土) 飯田橋レインボービル
主催:NPO法人「絵本で子育て」センター  共催:ほるぷフォーラム社
協賛:岩崎書店・偕成社・金の星社・こぐま社・鈴木出版・童心社・ほるぷ出版・理論社
特別協賛:ラボ教育センター

 つい数日前まで東京の気温は 35 ℃ を超え、このままでは東京会場に足を運ぶのも躊躇(ためら)われるほどの猛暑。それが、東京会場第 3 篇が開催された 9 月 25 日当日には、秋雨にしっとりと空気が和らぎ、秋めいた涼しさに、会場を訪れた人々の足も軽やかに感じられました。

  司会の大久保広子さんの穏やかで落ち着きのある進行で始まった第 3 篇。
午前の講師稲垣勇一氏が電車の遅延により、開始時間が少々空いたことで、急遽理事の山中光江氏による読み聞かせが行われました。絵本は『3びきのやぎのがらがらどん』。
山中氏の温かい素朴な語り口は、大人ばかりである私たち受講生を自然に絵本の世界へと誘い、絵本を読んでもらう気持ちよさにしばし心を傾けました。
絵本の読み聞かせも終盤を迎えた頃、稲垣勇一氏が到着され、頭を掻き掻き遅刻を謝罪される姿に会場から温かい笑い声が漏れ、穏やかな雰囲気に包まれました。

午前の講師・稲垣勇一氏は、かつてこの東京会場の修了生。
「生涯現場で」という思いを貫き、国語科教員として定年まで勤務され、退職された現在は、絵本・民話研究家として活躍されていらっしゃいます。
そして事務局の熱い要望に応えていただき、今回こうして演壇に立っていただけることになりました。
演題は「せがわやすお・作『ぼうし』を読む」とし、一冊の絵本を注意深く読むことで、絵本の魅力についての問題提起をしていこう、というもの。
その工程はまるで国語の授業を受けているような、非常に緻密なものでした。
作家・せがわやすお氏と親しい稲垣氏からは、故人への深い友情が感じられ、一字一句、絵の隅から隅までを余すことなく読み取ろうという絵本と作家への熱い愛情が伺えました。

「ぼうし」に登場する人物の絵は、一般的に見て「カワイイ」と言われる種類のものではありません。しかし、ぼうしを介して成長を遂げていく渦中で、実際に見せる登場人物の顔は「カワイイ」顔ではなく、恐らくこの絵本の絵のような真剣で凛とした表情であろう、と稲垣氏は指摘されます。
ただ「カワイイ」としか表現できないような語彙の乏しい絵本ではなく、ストーリーの中で登場人物の姿が様々な受け止め方ができ、その成長が描かれるような絵本を大人が選ぶべきだと稲垣氏は強調されました。
子どものものは全て大人が選び、与えているのだから、その大人がしっかりとした価値観を持ち、選ぶ責任を感じるべきだとおっしゃいました。
そのためにも、「主食の絵本」「おやつの絵本」を区別する知識を得る努力が欠かせないのだと実感致しました。
1冊の絵本を、深く、深く読み解くことで、その絵本への愛着も愛情もより深まり、実際に子どもたちに読む時、決してあからさまではなく、あくまでじんわりとその気持ちが伝わっていくのだろう、とその楽しさを感じることができました。

  午後の講演は、片岡直樹氏の「テレビ・ビデオが子どもの心を破壊している」でした。
川崎医科大学名誉教授、 Kids21 子育て研究所所長の片岡氏は、 68 歳となる現在も小児科医として 44 年の経験と研究を駆使し、全国から訪れる発達障害として治る見込みがないと診断された患者を診察してらっしゃいます。

電子機器の進歩に反比例して、子供の育児環境は悪化しています。先天的な発達障害とは別に、健常児として生まれて来た子どもであったはずなのに、テレビや DVD, 電子音のおもちゃなどの電子機器に日中の多くを支配された子どもに、発達障害と同様の症状が見られることを片岡氏は指摘されています。
そして、その多くの子ども達が、片岡氏の指導通り、一切の電子機器との接触を遮断することで症状が緩和され、話せなかった子どもたちがごく普通の会話が出来るまでに改善されていくと言います。
出生から 2 歳までの期間の子育てを大切にし、電子機器のない環境の中での「語りかけ育児」や「スキンシップ」など、昔からの日本伝統の育児をすることの大切さを片岡氏は強調されました。

テレビを見せると子どもが喜ぶ、その間に家事ができる、そんな理由でテレビをつけっぱなしにし、テレビに子守をされる親が増加する現代の育児事情。
テレビの観すぎは良くない、と理解していても、なぜ良くないのかまでは理解できていないのではないでしょうか。電子機器のもたらす悪影響を子育てに携わる親や祖父母に正しい知識を得るチャンスを作らなくてはなりません。テレビを見せる、その代わりにできることは何だろう?その一つに絵本を一緒に読む、が最適であると再認識しました。

  藤井勇市専任講師の講義では、絵本がどうあるべきか、というその位置づけについてのお話でした。
絵本を、言葉を覚えるため、ひらがな・カタカナを覚えるためなどの知育道具には使わず、親子や保育者と子どもが絵本を読むという楽しい空間を共有する手段の一つであればいい、と話されました。
どんな絵本を選ぶか、それはみんなに評判がいいから、誰かにオススメされたから、ではなく、読み手が好きな本、感動した本でいい。読み手と子どもが絵本を通して楽しく温かい思い出が作れることが一番だ、と強調されています。
毎編のこの藤井専任講師のお話は 1 回分の講義に匹敵するほど内容が濃く、絵本や子どもたちを深く愛する心が強く伝わってきます。

グループワークでは、グループごとに白熱したディスカッションが繰り広げられている様子が強く伝わってきました。話題に事欠かず、積極的に発言する姿が多く見られ、終了の合図後も清清しい顔つきで、それぞれ熱い思いを抱えて 2 ヵ月後の講座に思いを馳せているかのようでした。
回を重ねるごとに親密になり、自由な発言が飛び交うグループワークの今後の展開が楽しみです。
(まつもと・あい)

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