飫肥糺 連載128 損得なしの関わり。 素朴な真情から生まれるともだち。 思いがけない契機からだって……。『ともだち』(リーブル刊)

8年前の2013年、ぼくは「絵本フォーラム」第91号で『ともだち』(玉川大学出版部刊)を取りあげている。谷川俊太郎が「ともだち」の語釈を詩文で語り、和田誠がその語釈を特異な誰にも親しいイラストで表現した。


絵本は、「ともだちって
…、ともだちなら…、どんなきもち…」などと美しいことばと絵で語りかける作者ふたりの人間や平和に対する思いが彷彿する名作だ。ぼくのような高齢者にも示唆を与えてくれた。

 

ぼくはこの一文のなかで数人の友人について触れた。かれらは、永い交友のなかで友となった「そばにいなくても いまどうしているかとおもいだす」幼なじみや「かあさんにもとうさんにもいえないことをそうだんできる」学友や、談論風発呑み交わし師弟関係にも似た「としはちがってもともだちはともだちである」小説家だった。いずれも共通するのは利害関係いっさいなし。友人というより親友・畏友でだ。友人だと思っても半数は自分を友人と思っていないという調査結果もある。友人親友をひとくくりにはできない。

ところで、友人は作ろうと思ってつくれるのか、いつのまにか友人になっていたという関わりだろうか。

 

同じタイトルの幼児絵本『ともだち?』(リーブル刊) がその一例を物語っている。

 

森の学校に転校してきたばかりのオオカミのロウロウが主人公。敵役は狡猾なキツネのツネだ。そして、ロウロウのかあちゃんが渋い役回りを担う。この三人(匹)の動物たちが主なキャストでおはなしは展開する。

 

イラストも力感あふれるいい展開だ。赤緑茶黄白を濃密に彩色し塗り込んで動植物に大胆にシャープに描出して魅力をひきだしている。この色彩・造形がおはなしに適う力強いリズムを生み出したのではないかと思う。

 

ロウロウはともだちが欲しくてたまらない。けれど、おしゃべり苦手でうまく声をかけられない。そればかりか、怖がられてしまうのだ。だから、ロウロウの学校での立ち位置は、たのしそうに遊ぶみんな、ひとりぼっちのロウロウ”の構図となる。


で、ロウロウはかあちゃんに「ともだちはどうすればできるか」とたずねるのだが「いつか
 きっとできるよ」とそっけない。なんだか悠然としている。それより「とおぼえのけいこをしてごらん。こころがおおきくなるよ」と促すのだ。ロウロウはかあちゃんのいうように遠吠えの練習にはげむ。ロウロウは素直な少年なのだ。

 

物語はマラソン大会で盛り上がる。優勝宣言をしたのはキツネのツネだ。走ることなら負けないとロウロウも自信を秘める。勝てばともだちができるかもしれないと希望もふくらむ。

 

ツネがスタートからすごいスピードで走り出す。ロウロウはゆっくり走り出し後から追い上げる戦法をとった。しだいにロウロウはみんなを抜き去り残るはツネだけに。ところが、だ。ツネは腹痛で走れないとうずくまっていた。そこでロウロウは、なんとツネを背中に乗せて走り出したのだった。

 

ゴールに近づくと腹痛が治ったというツネを降ろす。降ろすや否やツネは全速で走り出したではないか。ツネはそのままゴールインして優勝。走り去るツネを呆然と見送るだけだった。ロウロウは何も言わずに立ち去った。……ツネの腹痛は狡猾でひきょうな作戦だった。

 

まんまとはめられたロウロウだが、その夜もロウロウは遠吠えの練習にはげんでいた。驚いたことに、そこにツネがやってきたのである。ツネは「おいらのこころはちっちゃい。きたない」と反省のことばを吐き、本当の優勝はロウロウだと懸命に謝るではないか。ずるをして得た優勝はツネの心を喜びからすっかり苦痛に変えていたのである。かくして損得の感情を捨て去ったふたりが「いっしょにとおぼえをしよう」と吠え合ったのは語るまでもない。いつのまにか二人は「おれたち、もう、ともだちだよね」とたがいを認めていた。

 

損得・利害でつながらない。ロウロウのような真情を持つことができれば、あせることはない。自然に友だちはできるのだ。

(おび・ただす)

 

ともだちうえの よし/作 さとう のぶこ/絵 リーブル

土居安子のおすすめ絵本 第129号『チンチラカと大男』他

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「絵本フォーラム」第129号
(2020.03.10)より

「へてかへねかめ」おふろでね

『おまつりをたのしんだおつきさま
メキシコのおはなし』

マシュー・ゴラブ/文
レオビヒルド・マルティネス/絵
さくまゆみこ/訳
のら書店

 星たちが「たのしい あそびも おまつりも、みんな おひさまの もとでしか みられない」から「おひさまの そらに ひっこししたいな。」と言っているのを聞いたおつきさまは、夜にお祭りをすることにしました。紙のランタンやたくさんの食べ物を用意して、みんな歌ったり踊ったりしてお祭りを楽しみました。メキシコ・オアハカ地方に伝わる物語。民族性豊かな絵が自然とともに生きる人々の暮らしをあたたかく描いています。


(税込価格1,760円

チンチラカと大男

『チンチラカと大男』
片山ふえ/文 スズキコージ/絵
BL出版

 3人兄弟の末っ子のチンチラカは、王様に魔の山に住む大男から黄金のつぼを取ってくるように言われます。チンチラカはドリルとシャベルをもらって知恵を使って王様のためにつぼを手に入れます。すると、王様は今度は魔法の楽器のパンデゥリを手に入れるように命じます。山に囲まれた国ジョージアの昔話。大胆な構図でチンチラカの活躍をいきいきと描いた絵が魅力的です。

(税込価格1,760円)

コレットのにげたインコ

目で見てかんじて
世界がみえてくる絵本

ロマナ・ロマニーシン/著
アンドリー・レシヴ/著
広松由希子/訳
河出書房新社

  黒い帽子に白フクロウが乗った蛍光ピンクの表紙を開くと、青い見返しの左に閉じた人間の両目があり、右には開いた両目が描かれています。この本は、「見るとは?」「色とは?」「イメージとは?」などの科学的な事象が洗練されたデザインと詩的な文章でユーモラスかつ哲学的に紹介されています。目が見えない人にとっての「見る」とはどういうことかも書かれており、画面の美しさは見ることの楽しさを実感させてくれます。


(税込価格2,200円

土居安子のおすすめ絵本 第128号『たいこ』他

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「絵本フォーラム」第128号
(2020.01.10)より

「へてかへねかめ」おふろでね

『「へてかへねかめ」おふろでね』
宮川ひろ/作 ましませつこ/絵
童心社

 そうたは、大好物のくりおこわを食べてから、じいちゃんとお風呂に入ります。じいちゃんはそうたの頭を洗ってくれて、いっぱい遊ばせてくれます。そして、「そろそろ あったまろう」と言います。すると、そうたは「へてか へねかめ かめかめ かめか・・・」という不思議な呪文を3回唱えます。呪文を唱えているときの絵が空想豊かで、一日たっぷり遊んだそうたが、お風呂であたたまった満足感が伝わってきます。


(税込価格1,430円

たいこ

『たいこ』
樋勝朋巳/ぶん・え 福音館書店

イヌがたいこをたたいています。すると、子どもとカエルとライオンが順番に「なかまにいれて」とやってきました。たいこの音は「トントン ポコポコ ペタペタ ボンボン」とにぎやかになりました。すると、そこへワニがやってきて、「うるさいぞー」とみんなを追い払い、一人でたいこをたたきはじめます。追い払われたみんなはそうっと仲間に入りました。みんなでたいこをたたいて心がはずんでいく様子が絵から感じられます。

(税込価格990円

コレットのにげたインコ

コレットのにげたインコ
イザベル・アルスノー/作
ふしみみさを/訳 偕成社

 コレットは引っ越してきたばかり。外へ出ると近所に住む兄弟に出会います。コレットは思わず、「ペットが いなくなっちゃって さがしてるの」と言います。すると、その兄弟は、ペットを一緒に捜してくれると言い、友だちのリリイに望遠鏡を借りに行こうと誘います。こうして、近所にインコの捜索隊ができあがり、コレットのウソはどんどん大きくなります。絵がコレットの気持ちとコレットの語るウソの魅力を描いています。


(税込価格1,540円