子育ての現場から 12  ゆっくり、ほっこり絵本の時間

児童発達支援事業所

枦山 佳子(はぜやま・よしこ)

はぜやま・よしこ 3人の娘の子育ても終わり、不思議な縁に恵まれて「児童発達支援事業所」に勤めています。発達がゆっくりな6歳までの子ども達が、保護者同伴で通所しています。

 当事業者では、感覚教育を取り入れ、子ども達が五感を育むことができる環境を整え、個別指導のもと様々な経験を積むことで、成功体験をたくさん増やせるように支援しています。中でも活動の終わりに行っている「絵本の読み聞かせ」の時間は、とても大切な役割を果たしています。子ども達にとっての読み聞かせの時間は、活動が終わりとなる見通しにもなります。

 絵本の読み聞かせが始まる前に、椅子を並べる準備をします。子ども達の中には、準備を手伝ってくれる子、並んだ椅子に座っておすまし顔で待っている子、母親の膝に座って安心した表情で待っている子、わくわくした笑顔で待っている子、そわそわして椅子には座れない子、「絵本はいらない、聞きたくない」と言ってそっぽ向いてる子もいます。そんな中「絵本が始まるよ」と声をかけると、「車がいい」「飛行機じいさん」「かいじゅう」等々とリクエストしてくれる子もいて、選書に迷ってしまうこともありますが、同じ言葉で、繰り返し綴られている絵本や、動物がでてくる絵本には、興味を示してくれる子どもが多くいます。また、最後まで聞けない子も「絵本はいらない」って言っていた子も時折、ちらちらと絵本に目をやり、読み手が語る声や文脈にも反応して気にしている様子が見受けられる時もあります。

 こちらに通所して1年になる幼児がいます。当初は、目も合わず、発語もほとんどなく、表情も乏しゆっくり、ほっこり 絵本の時間く、感情が殆ど読み取れないお子さんでした。まずは、彼が笑顔で楽しく過ごせる時間となるよう様々なアプローチをしながらコミュニケーションを取っていきました。そんな中、個別での読み聞かせをすることにしました。最初に興味を示した「りんご」に着目し、果物が描かれている絵本『くだもの』(平山和子/作、福音館書店 )の読み聞かせを始めました。すると絵本の中に描かれているりんごが出てくると「りんご」と声に出して伝えてくれました。彼にとっての絵本は、語彙が増えていくきっかけにもなり、今では、二語文も出始め彼の日々の成長を感じることができるようになった母親にも笑顔が戻り、笑顔で彼のことを話せるようになり、喜びの声も聞けるようになりました。

 子ども達に読み聞かせを毎日続けることで、絵本に興味を示し、絵本の文脈の中で、使える言葉が身につき、語彙力に繋がる子もいます。又、物語の中の主人公と同じ気持ちになって感情を表してくれる子、絵の細部まで見ていて、見つけたものを言葉にして伝えてくれる子もいます日々、子ども達の成長ぶりに驚かされ、感動する瞬間が多々あります。そんな日々の中で感じることは、大人が子どもに「教えたいこと」の数より、子どもが「やりたいこと」の数の方が10倍多く、子どもの「やりたいこと」すべてに無駄がないことに驚かされています。たくさんの子どもと接して感じることは、子どもは一人として同じやり方はしない。だからこそ、その子どもにあった伝え方で、その子どもが納得するまで繰り返すことを大切にしたいと思います。子ども達が、やがて自ら学び、自ら考え、自ら行動できるようになる時まで。
(はぜやま・よしこ)

絵本フォーラム129号(2020年03月10日)より

連載 ジェリーの日本見聞録12 本の地図

『本の地図』
7年前、今のアパートに引越した時に3つのルールを決めました。

 7年前、今のアパートに引越した時に3つのルールを決めました。

1. 無駄なものを持たない。

2. 自分らしい部屋にする。

⒊ 本棚を4つ以上買わない。

1と2はルールを守っていますが、3は本が増えると年に何回か本の整理をしないといけません。

 最近、アプリを使って本のバーコードをスキャンして、本の管理をしています。これを使うと、自分が持っている本でのデジタル本棚が出来ます。「何を持っているか?」タイトルやキーワードで簡単に検索できるので、とても便利です。このアプリを使い始めてから「あ!持っていたのに買っちゃった!」ということがなくなりました。

 それでも、私は自分の本棚を見るのが好きです。初版や古書など特別な本を持っているわけではないのですが、本のタイトルを見ると、そこから違う本に繋がる、私にしか見えない線が見えてきます。本と本の間にある線は、私にしか見えない世界地図を通っています。

 この前、友達から「ジェリー、本棚の板が歪んでるよ」と言われて、「そろそろ本の整理をし直さなくちゃ」と思いました。今回は頑張って、「10冊ぐらい減らすぞ!」と決めました。友だちが帰ってから本棚の前に立ち、本の整理をし始めました。

 最初に目に入ったのはLee Bennett Hopkinsの『Books Are By People』でした。これは昨日買ったばっかりだからキープ。そこから私にしか見えない線をなぞって、目がSarah Dyerの『Five Little Fiends』にたどり着きました。ここは本棚の真ん中にある、絵本の国で一番広い国です。

 『Five Little Fiends』は支部会で話題になって盛り上がりましたし、来月の絵本講座で使うからキープ。線はまだ続いて、今度はさいとうあかりの『おちたらワニにたべられる』に到着。保育園で読み聞かせをした時に、それまで騒いでいた120人の子ども達が夢中になって「シーン」となった絵本です。これもキープですね。さらに私の目は進みます。

 とよたかずひこの『でんしゃにのって』、いわさきちひろの『うらしまたろう』、西村繁男の『おふろやさん』がありキープ、キープ、キープ。次に、目は瀬川康男の『いない いない ばあ』にたどり着きます。これは初めて日本語で読み聞かせした本だからキープ。そこからRuth Bornstienの『Little Gorilla』に。私の人生を変えた本だから、これも絶対キープ。

 その先、司 修の『俊寛』にも目が止まります。「これ長いよね……講座で使った事ない……あぁ、でも文章と絵の組み合わせが好きだからキープだな」。あれ? 松谷みよ子の『お月さんももいろ』はどこだっけ? それでまた『うらしまたろう』に戻る。

 目が進みながら本の内容だけではなく、紹介してもらった人の顔、どこで買ったか? 読んだ時の聞き手の反応が頭の中で浮かんできます。

 長いこと絵本の国に居たので、そろそろ移動してみよう。今度は下の方にある漫画の国へ行ってみよう! 国境で待っていたのは漫画の国の代表者、市川春子の『宝石の国』、星野之宣の『宗像教授伝奇考』、CLAMPの『エックス』と『ホリック』でした。これは私が絵本を作る時にイメージをたくさん与えてくれる参考書で、いつも読んでいます。「あぁ、漫画本は捨てられないな」全部キープだ。

 では、次に上の方にある小説の国へ行ってみよう! まず私を出迎えてくれたのは、小澤俊夫の『働くお父さんの昔話入門』、柳田國男の『遠野物語』、そこで私はふと思いました。「あ!これは全部、絵本講師・養成講座の最後のリポートに……」考えている途中で目が『絵本講師・養成講座テキスト第5巻』にたどり着きます。今日の「本の地図の目的地」はここになってしまいました。あぁ……本の整理をするはずが本は全然減ってません。また明日やってみよう!

(ジェリーマーティン)

連載 ジェリーの日本見聞録11 「出来ない事」からスタートして

母は「私は政治家のやっている事が分からないの」、と昔からよく口にします。

 母は「私は政治家のやっている事が分からないの」、と昔からよく口にします。皆さんにも、自分には分からないとか、出来ない事があると思います。私の「出来ない事」のトップ3。3位は実家で牧場を経営している影響でホルモンを食べられない事。2位は計算が早く出来ない事(考えるだけで意識が飛んじゃう)。1位は自転車に乗れない事。

 自分の出来る事よりも、自分が出来ない事の方が大人になるほどインパクトが強くなる気がします。自分の場合、数字や計算の話が始まると、『マーティン城』の門を閉めて、鍵をかけて、かたくなに身を伏せる状態になります。

 自分が出来ない状況に陥ると「(ホルモンは)美味しいですよ」と言われても、(嘘でも)「お腹がいっぱいです」と返事をしますし、「自転車ならすぐ行けるよ」って言われても、(いくら遠くても)「歩くのは好きですから」と自動的に嘘の返事が出てきます。これは私だけではなく、皆さんにもそういうところがあると思います。

 「私には政治の事が分からないので、アメリカの事はもっと詳しい人たちにお任せしてきた」と母は言います。

 私も母と同じようにそうしてきました。自営業になってから、税金の事は税理士におまかせしています。これはよくあるパターンだと思います。

 記憶の中では嬉しい事はたくさんあるのに、トラウマや失敗した事はいつも記憶の表面の一番近いところにあると思います。アメリカの哲学者、 サンタヤーナの言葉「Those who cannot remember the past are condemned to repeat it: 過去を記憶できないものは、その過去を繰り返す運命を背負っている」はこの事からくると思います。

 「他人任せにしてきたばかりに、今アメリカはこんな国になってしまった。今のアメリカは怖い。自分ももっと何かすれば良かった……」と母の口からこのような言葉が出た時には、ぞっとしました。それと同時に、私の人生においても同じ事が当てはまるのではないかと考えさせられました。これまでに何か自分でも出来た事があるかもしれないのに、「自分が出来ないから」と無視してきた事をあらためて感じました。

 私は毎年末にアメリカに帰ります。11月ぐらいからワクワクしはじめます。そのワクワクは家族に会うのが8割、2割は書店に行く事です。新作英語の本が手に入りやすいからです。前回1番気になっていたのは、ミシェル・オバマさんの『Becoming』でした。子どもの頃の話、旦那さんとの出会い、自分の不安や喜びなどギッシリ入っている400ページの作品を4日間で読み終えました。その本の表紙を見て母は「その方とその家族は素敵だった。ずっとあの家族がアメリカの顔でいて欲しかった。私は政治家のやっている事が分からないの。私には分からないので、この国のことはもっと詳しい人たちにお任せしている。けどね、そればかりして今アメリカはこんな国になっている。今のアメリカは怖い。自分はもっと何かすれば良かったな」と言いました。

 そこから私たちの会話がスタートしました。いつも早く寝る母なのに、2人で夜中の2時過ぎまでいろんな事を語り合いました。途中で煖炉の火が弱くなり、温かい飲み物を取ろうとキッチンに行って、ポットのスイッチを入れた時に気づきました。

 私の38年の人生の中で、初めて母と本の話をした事を。いつか「母と本の話をしたい」それは、私が幼い頃から抱いてきた夢でした。お湯はまだ沸いていないのに、気持ちがポカポカになりました。

(ジェリー・マーティン)