「えほんの力 絵本の可能性 」第16期『絵本講師・養成講座』を受講して(「絵本フォーラム」130号から)

絵本のちから 絵本の可能性

第16期『絵本講師・養成講座』を受講して

「絵本フォーラム」130号2020.05.10

絵本がつないでくれた喜びの連鎖 髙井 芳(芦屋16期生)

たかい・かおり
髙井 芳(芦屋16期生)


 絵本に囲まれている時の充足感、読み聞かせはいいなあという漠然たる印象、この思いはどこからくるのだろう。整理してみたいと思う日々、計らずも第16期「絵本講師・養成講座」にて学ぶ機会を得ました。しかし、私ごときがと、会場へ向かう足は常に緊張したままでありましたが、絵本の世界観を知ることの嬉しさで、次第に興奮の坩堝(るつぼ)にはまり込んだ一年となりました。

 その原因の一つは、とにかく講演内容の魅力にありました。一冊の絵本が生み出されるまでの作家・画家・編集者等、絵本に携わる方々の生の声やあふれるほどの想い、絵本がもつ背景等々、知らなかったことが次々に解き明かされていく絵本の世界の何と興味深いことでしょう。思わず前のめりになって聴き入りました。また、なぜ絵本の読み聞かせをするのか。その根源的な問いに向き合うことができました。それは、私たちが生きているこの社会構造を常に認識し、真実はどこにあるのか問い続けること、子どもたちの現状をしっかり把握することであり、そのことを忘れてはいけないという姿勢が大切だと学びました。「この本、おもしろいな」と安易に手に取っていたことがいかに不遜な振舞であったか思い知らされた気がしました。読み聞かせに対する基礎知識・技術を学習することも大切ですが、『この一冊の本を仲立ちにして、子どもと大人が経験を共有することにより成長しあうもの』(中川正文氏)という読み聞かせの本質を常に大切にしたいと思います。

 二つめは、やはり、人と人とのつながりでした。丁寧で細やかな配慮により、緊張をほぐしていただき、安心できる学びの場を作ってくださったのは、事務局の方々のあたたかさでありました。また、共に学ぶ仲間の声をつないでくださったリーダーの方の心遣いや楽しい情報を寄せてくださったメンバーの皆さまの心持ちに、新しい人とのつながりが生まれ育っていく喜びをいただきました。同じ場に集い、同じ方向に向かって学習を進める同志がいることは楽しく、喜びの原因であったことは間違いありません。

 三つめは、学習方法です。「リポートは手書きで」と、敢えて指示されたことの意味を一年間模索し続けました。課題に、懐疑的になったり、放り出したくなったり……。でもまたペンを握っている自分がいました。その道しるべはやはりテキストです。多角的な視点から問題を追及し、整然と分析され、的確なレールを示してくれるテキストは心強い味方でした。それから自らの乏しい経験をたぐりよせたり、糸口を探し求めて図書館や書店に走ったり、時には課題とは無縁の本につかまったり、こんな行動がおもしろくておもしろくて、そしてまた手が動き出すのです。その中で私の生きてきた証ともいえる本との奇跡的な遭遇もあり、どれほど驚いたことでしょう。本が本を呼ぶというのでしょうか。興味深い本が次から次へとつながりました。そこからすてきな言葉を拾い集め、本を想い、読み聞かせのあり方を考え、様々な人との出会いを思い起こし、一文字一文字ペンを進め、言葉を綴り、文を紡ぎ出す、そのためにまた手を動かします。それは、「手が脳になる」静かな喜びの時となりました。これはあくまで私が行きついた身勝手な「手書き」の意味でしかないのですが……。

 この一年、何と満ち足りた時間をいただいたことでしょう。まだその興奮冷めやらず、本講座に出合わなければ味わえなかった喜びがふつふつとわいてきます。いつもこの手に絵本を携えながら、これからの出会いをゆっくり探し続けたいと思います。
(たかい・かおり)

絵本と学びを子育ての根っこに 青木 慈(芦屋16期生)

あおき・めぐみ
青木 慈(芦屋16期生)

 「絵本講師」という存在を知ったのは、地域で開かれた絵本講座に参加したことがきっかけでした。初めての出産・子育ての真っ最中で不安ばかりの頃でした。夫婦共に読書が好きで自宅には絵本もありましたが、生後5か月頃までは手に取る余裕もなかったことを覚えています。しかし、絵本を息子と楽しむようになってから、それまで一方通行のように感じていた息子とのコミュニケーションが豊かになって行くように感じました。また、絵本というツールを介することで、赤ちゃんとの関わりに不慣れだった夫も息子との時間を多く持てるようになり、嬉しかったことを覚えています。「絵本で子育てすること」をもっと知りたい、いつか自分と同じように子育てに不安や緊張を感じる人・子育てに励む人に大好きな絵本を介して役に立てるようになりたいと思い、「絵本講師・養成講座」の受講を決めました。  

 第1回のスクーリングの朝、母と離れる経験が少なかった1歳半の息子に大泣きされ、後ろ髪をひかれる思いで家を出発しました。「絵本の知識もなにもない、ただ母親になったばかりの自分に1年間やり通せるだろうか」と会場までは不安と緊張しかありませんでした。しかし、会場に入ると多くの方と机を並べて学べることに喜びを感じることができ、「はらぺこあおむしのように貪欲に学んでください」という励ましの言葉とともに学びの1年が始まりました。

 スクーリングでの絵本作家、翻訳家、評論家、絵本編集者、小児科医等、絵本や子どもに携わる講師陣による講演を聞いて、絵本の背景や成り立ち・構成、絵本の魅力・楽しみ方から子どもとの関わり方のヒントまで様々な角度から多くのことを学びました。グループワークでは、年齢も職業も住む場所も違う方々と絵本について語り合うことで、お互いの知らない新たな絵本について知るきっかけにもなりました。回を重ねるごとに熱を帯びるグループワークは学びの楽しさに気づくことができました。それらの全てが私にとって今後の子育てや絵本と向き合う糧になるものでした。

 課題リポート作成は、スクーリングとテキストでの学びを、ひとつずつ自分の言葉にしていく作業でした。講座を受講するまでのおおよそ2年は社会との繋がりが薄れていき、言葉をまだ言葉として発しない息子との日々でした。久しぶりに経験する大量のインプットとアウトプットに、思いを言葉にできないもどかしさを感じながらリポートに向き合いました。しかしそのリポートに向き合う中、講演で何度か紹介された『星の王子さま』の1節「大切なものは目にみえない」という言葉の重みを痛感しました。「大切なものは目には見えないからこそ言葉を通して大切なものが目に見えるようにする」ということを、身をもって学ぶことができました。

 私は、自分自身の学びを深める目的もあり、毎回の講演やテキストで学んだことをすぐに家族に話すようにしていました。その結果、家族で絵本を楽しむ時間が増え、「絵本で子育て」することの楽しさを実感した1年でもありました。1回目のスクーリングの朝に大泣きしていた息子は2歳半になり、毎朝お気に入りの絵本を持って「おはよう」とあいさつしてくれるようになりました。息子の話す言葉の多くは絵本のセリフです。家族の会話の真ん中に絵本があります。同じ物語を家族で共有する楽しさ、根っこがつながっているような安心感はこの1年の学びを通して得られた家族の絆のように思います。絵本を通して「ことば」と「心」を伝えていくことの素晴らしさを学べた1年間でした。この感動を少しずつ一人でも多くの人に伝えられるように、これからも学びを深めていきたいと思います。そして日々変わらずに家族で絵本を楽しみながら、「絵本で子育て」を私自身が実践していきたいと思います。
(あおき・めぐみ)