子ども歳時記149 ホームランを打ったことのない君に/舛谷 裕子(長谷川集平/作、理論社)

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子ども歳時記『ホームランを打ったことのない君に』舛谷 裕子

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今年の春、久しぶりに高校の同窓生と、第95回記念選抜高等学校野球大会観戦のために、阪神甲子園球場へ出かけました。母校は出場していなかったのですが、偶然にも出身県である香川県の2校の試合を観戦することができました。どちらも負けてしまいましたが、野球に詳しくない私でもわかるような「手に汗握る」好試合でした。その時、初めて知ったのですが、高松商業高等学校(通称は高商)には「志摩供養」と呼ばれる伝統儀式があるのだそうです。

1924年(大正13年)に開催された、第1回記念選抜高等学校野球大会で高松商業高等学校が優勝した年、三塁手であった志摩定一さんが選抜大会以前より患っていた肺の病気でその冬に亡くなられました。「自分は死んでも魂は残って、三塁を守る」と遺言を残され、その意志を継ぐために後輩たちが1930年代に始めたのが「志摩供養」だということです。以前は初回の守備につく前に、全員で三塁ベースを囲んで円陣を組み、主将が口に含んだ水を三塁ベースに吹きかけ黙祷していました。1978年に高野連から遅延行為及び、宗教的行為にあたるという理由で中止勧告を受け廃止されていましたが、数年前から試合前に三塁手がひとりでベース前にひざまずき、黙祷を捧げているのだそうです。その若者の真摯な姿を広い球場で目の当たりにした時、私にはそこが神聖な場所と思え、心がうたれました。

ちょうどその頃、WORLD BASEBALL CLASSIC 2023(WBC2023)も開催されていました。当初、どれくらいすごい大会なのかもあまりわからず、高校野球のニュースが少ないと私は不満を抱いていました。日本の選手が「侍ジャパン」と呼ばれ、どんどん勝ち進み優勝しました。甲子園球場の電光掲示板には“WBC 日本代表 世界一 おめでとう!”と映し出されていました。そこで初めて実感できました。その後のニュースでも日本人選手や日本人ファンの言葉や、態度、マナーの良さや、品位などが連日報道され、この春はまさに野球漬けの日々でした。

さて、この絵本はいつかホームランを打つために努力を続け、夢を追う少年の姿が描かれています。高校球児やWBCの選手の活躍は、幼い頃から、暑い時も寒い時も毎日毎日練習をした結果なのだと思います。そして、毎日、同じように練習していても結果が出なかったり、怪我などで野球をやめてしまわなければいけない人も大勢います。野球だけではなく、最近は結果を求められる場面が多いと感じます。思い通りにならず悔しかったり、失望したり、心残りがあるまま次に進んでいかなければならない時もあると思います。結果はどうであれ、「やりぬいた!」、「がんばった!」体験を認めたいものです。夏に子どもは大きく成長するといわれています。そして、それは大人になってから役に立つのだと思います。何時も「きっと大丈夫!」と見守り続けていたいものです。(ますたに・ゆうこ)

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ますたに・ゆうこ

●講師● 舛谷 裕子…2020/08/18 (特)兵庫県子ども文化振興協会/神戸市勤労会館(兵庫)

1)担当講師名:舛谷 裕子

2)芦屋or東京第何期:芦屋3期

3)主催:(特)兵庫県子ども文化振興協会

4)県・市町村:兵庫県神戸市

5)開催年月日(西暦):2020年08月18日

6)開催場所:神戸市勤労会館

7)参加者のコメント(感想文): 毎回、どんな本を読んでいただけるのかと楽しみにしています。絵本を読み聞かせしてもらうことは、大人になっても楽しいです。今日の本は、自分が生まれたときの親の気持ちを想像でき、とても面白かったです。

8)コメント者名:上岡 真巳さん

9)参加人数:15名

10)読んだ絵本の名前:
「 100万回生きたねこ 」講談社
「 きみのいたばしょ」サンクチュアリ出版
「 たいせつなあなたへ 」講談社