絵本体験記291 心を繋いでいた絵本の記憶 平 沙有香 (千葉県)

わたしの絵本体験記
心を繋いでいた絵本の記憶
心を繋いでいた絵本の記憶 平 沙有香 (千葉県)

~絵本フォーラム第130号(2020年05.10)より

 

 私が初めて絵本を買ったのは、娘が3才の時です。保育園に頑張って通う娘へのご褒美でした。読書経験の無い私は、娘が喜ぶか心配になりながら文字の少ない可愛い絵本を選びました。「今日ね、面白い絵本を買ってみたの」、読みながら2人で夢中になって絵をたどり、いつの間にか驚きと笑いに包まれていました。その頃、我が家に父親の存在はありませんでした。母子だけの生活は寂しく不安でしたが、温かい絵本の時間は2人の楽しみになりました。

 その後、仕事が忙しくなり、娘との時間は減っていきました。娘は今年20歳になります。お勧めの本を聞くと、文庫本を渡されました。読み込まれたシワだらけの古い本。見覚えのある題名。「忘れちゃったの? 自分で買った本でしょ? 小学生の頃、ママを待ってる間、いつも読んでたんだよ」仕事を優先し、遅くまで娘を独りにさせていたあの頃。笑うことを忘れた私。泣いていた娘の記憶が蘇りました。大切に読み込まれたその本は、あの時の涙の理由を伝えているようでした。

 私の心が戻ってくるのを待っていた娘。娘と私の心を繋いでくれたのは、絵本の記憶でした。絵本は心を満たしてくれる、まさに魔法の本です。しつけや教育の為でもなく、効果を期待するものでもない。子どもの笑顔を生み、親子の心を繋いでくれる。

 最近また2人で本の話をするようになりました。時々話題が逸れ、時間を忘れて深夜まで話すことも。娘から改めて本の面白さを教わっています。
(たいら.さゆか)