vol.2 ドールハウスの好きな女の子

~絵本フォーラム第126号(2019年09.10)より~ 第2回

娘が小さい時になりたかった職業はパティシエです。外で遊ぶのも好きでしたが、絵を描いたり本を読んだり、折り紙をするのが好きな女の子になりました。特にドールハウスが大好きで、少しずつお人形や家具を集めて、夢中になって遊びました。小さな洋服を縫ったり、紙粘土でご馳走を作ったり、わたしも自分が小さかった時を思い出して、娘と一緒に楽しみました。

小学生になると、わたしが子どもの頃読んでいた本を、娘も読むようになりました。 リンドグレーンの『やかまし村』シリーズ(大塚 勇三 /訳、岩波書店)、C・S・ルイスの『ナルニア国ものがたり』シリーズ(瀬田 貞二/訳、岩波書店)、E・B・ホワイトの『シャーロットのおくりもの』(さくま ゆみこ/訳、あすなろ書房)、ルーマー・ゴッテンの『人形の家』(瀬田 貞二/訳、岩波書店)、他にもロアルト・ダールやケストナーなど……。2人で感想を言い合い、本の話をするのは、娘の成長も感じられて、とても楽しい時間でした。

小学6年生の秋の終わり、娘は突然、野球がやりたいと言ってきました。テレビでプロ野球の特集番組を見ていて、興味を持ったようなのです。でも、その時期ではもうどこのチームにも入れません。話し合って、中学校では運動部に入って体を鍛えておき、高校は女子野球部のある学校を探して受験しよう、ということで娘も納得しました。

ところが中学に入学してすぐ、娘は学校から帰って来ると、「野球部に女子も入れるって先生に聞いたから、入りたい!」と言うのです。顧問の先生にお話を伺うと、先生はとても温かく迎えてくださるのがわかりました。でも、わたしと夫は反対しました。その時の野球部に女子はいませんでしたし、何より娘は野球初心者です。体格も体力も違う男子の中に入って、厳しい野球部の練習に耐えられるとはとても思えませんでした。娘は泣いて、どうしても野球がやりたいんだと言いました。夫は大反対で、わたしは2人の間で板挟みになってしまいました。

何日かその状態が続き、娘の気持ちを考えているうちに、わたしは気がつきました。わたしが楽しいと思うことを、娘も楽しいと思う時期はもう終わったんだ。いつも一緒にいて、わたしから離れると泣いていた小さかった時の娘の姿が浮かびました。でも今、娘はわたしから離れて、1人で新しい場所へ、前を向いて歩いて行こうとしているのです。

その時から、わたしは娘を応援しようと決めました。娘は野球部に入り、3年間を過ごしました。高校は、女子野球部のある学校は通える範囲にはなく、諦めて近くの学校に進学しました。ところがそこでも野球部に入り、また男子の中で最後までやり通しました。どれほど大変だったか、わたしには想像することしかできません。毎日のように娘は、部活での出来事を話してくれましたが、きっとわたしには言えないようなこともたくさんあったでしょう。6年間野球を続けたことが、娘にとってよかったのかどうかわかりません。どうかこの経験が、これからの人生に生かされますように、と願うだけです。

この連載を書くことになり、娘に「小さい時好きだった絵本はなあに?」と聞いてみました。娘が答えた絵本は『スモールさんはおとうさん』(ロイス・レンスキー /ぶん・え、わたなべ しげお/やく、福音館書店)でした。「本当に本当に大好きだったの!」と娘は嬉しそうに笑って言いました。わたしは、娘がこの絵本をそんなに好きだったとは、知りませんでした。

『スモールさんはおとうさん』は、スモールさん一家の日常の1週間を、白と青と黒だけのシンプルだけど楽しい絵で描かれた絵本です。

あらためて読んでみると、スモールさんの家族や家が、娘が小さい時遊んでいたドールハウスにとても似ているなと思ったのでした。
(たさき・きょうこ)