vol.1 がたんごとんの小さな部屋

~絵本フォーラム第125号(2019年07.10)より~ 第1回

これから、わたしと3人の子どもたちの話をさせていただくことになりました。

わたしの子どもは、高校3年生・女の子、高校1年生・男の子、小学4年生・男の子です。娘は今17歳になりましたので、わたしは17年間〝お母さん〝をやっていることになります。17年の間のささやかな話ですが、どうぞお付き合いくださいね。

わたしは小さい時から本を読むのが大好きで、物語の中に住んでいるような子どもでした。絵本やお話の中に出てくる〝お母さん〝は、みんなとても優しくて、忙しくても料理や縫い物を楽しそうにこなし、どんな時も子どもたちを笑顔であたたかく見守っていました。わたしもいつかこんな〝お母さん〝になりたいと思っていました。

大人になり結婚をして、子どもが産まれることになりました。長女が産まれたのは寒い冬の日で、夜中の12時頃から陣痛が始まって、3時間ほどで出産しました。その時から、わたしの眠れない日々が始まったのです。

それまで自分のやりたいことをやって、自分のためだけに生きてきたようなわたしが、突然、24時間子どものためだけに生きることになったのです。また娘は赤ちゃんの時は、全然寝ない、とても手のかかる子でした。おっぱいを飲んで、うとうとしたところを、そっと布団におろすと、目を覚まして、ぎゃ~! と泣きます。また抱っこして、オムツを見て、おっぱいを飲ませて抱っこして、寝たところをそっと布団におろすと、ぎゃ~!……。1日中その繰り返しでした。

その頃の夫は仕事で帰りが遅く、わたしの両親は遠くに住んでいて、夫の母はフルタイムで仕事をしていました。わたしは朝夫を送り出すと、1日中子どもと2人きりでした。

思い出すのは、友だちが遊びに来てくれた日のことです。友だちがいる間はとても楽しいのですが、夕方になると当たり前ですが、みんな帰ってしまいます。「またこの子と2人きりになってしまった……」。暗くなり始めた小さなアパートの部屋で、呆然としていた自分を思いだします。思い描いていた〝お母さん〝の姿など、どこかへ飛んでいってしまいました。

そんなふうでしたので、絵本を読む余裕はなかなかありませんでした。最初に娘に絵本を読んだのは、2ヶ月になってからでした。初めて読んだのは、『ちいさな うさこちゃん』(ディック・ブルーナ/ぶん・え、石井桃子/やく、福音館書店)です。その日娘は珍しく布団の上で機嫌よくしていました。わたしは久しぶりにほっとして、何をしようかと思いました。お皿洗いや掃除など、やることはたくさんありました。でもわたしはとても疲れていたので、娘の布団に一緒に横になって『うさこちゃん』を読みました。その後、市のブックスタートでもらった『がたん ごとん がたん ごとん』(安西水丸/さく、 福音館書店)もよく読みました。この2冊を読んだ時の、娘の反応が、赤ちゃんも絵本を楽しんでいるのだと、わたしに実感させてくれました。

1歳になり、娘はよちよち歩きを始めました。その頃住んでいたアパートは線路のすぐ横でした。ある日、電車が通った時わたしは何気なく、「がたんごとん がたんごとん」と言いました。するとこちらを見た娘が、よちよちとおもちゃ箱の中にあった『がたん ごとん がたん ごとん』の絵本を持って来ました。わたしは続けて「おおきなにわのまんなかに かわいいいえがありました」と言ってみました。すると娘は『ちいさな うさこちゃん』を持って来ました! その時の娘の「これでしょう?」、と言っているような小さな丸い目を、今でも覚えています。そんなふうに少しずつ、娘は泣いてばかりの生きものではなく、絵本を一緒に楽しめる心通う存在になっていったのだと思います。
(たさき・きょうこ)