63『そらいろのたね』服部 勢津子(絵本講師)

63.絵本講師の発言席 『そらいろのたね』

 私は現在、神戸市認定こども園の保育士をしています。その日々の中での、園児たちとの触れ合いをお伝えしたいと思います。

 毎年春の終りに、朝顔と風船かずらの種を子どもたちと一緒に、園庭や自分用の植木鉢や日除け用のプランターに植えています。花の季節が終わると種取りもしますので、年中児や年長児は、同じような黒い小さな種でも「朝顔は真っ黒だけど、風船かずらには白いハートの模様があるんだよね」とよく知っています。(風船かずらの緑色の風船が)「茶色くなったら風船を取って、中の種をとってもいいんだよね」、「まだかなぁ」と言いながら楽しみにしています。朝顔の花は「ジュース屋さんごっこ」や「色水遊び」にいつも活躍しています。  そして絵本『そらいろのたね』(なかがわりえこ/文、おおむらゆりこ/絵、福音館書店)の出番ですが、今年はいつもと違う体験をしました。絵本を読み終えた後、4歳児の男子2人が「なあ、そらいろのたねは、どんな色だと思う?」 「白色かなぁ」と話し合っているのです。私にはその意味が分かりませんでした。「?」がいくつも頭に浮かびました。

 2人の話を側で聴いていた5歳児の女子が、「そらいろって、お空の色だよ。だから水色だよ!」と言いました。2人の男子は無言。もう一度女子は「そらいろは水色だよ!」と言いました。男子たちは「ふーん」という曖昧な返答でした。  
 男子たちは「そらいろ」を色名とは思わず、「そらいろ」という名前の「種」だと思ったという。その思考を私は「面白い」と感じました。20年保育士をしていて初めての体験でした。   知っているとばかり思っていたことを、実は知らなかったという驚き。これは何が原因だろう。親子の対話不足か。テレビの見すぎか。実体験の不足か……。   「あ、見てごらん、空が赤いよ」 「きれいだね」 「雲が動いている。形が変わっていくよ。あ、恐竜になった」、なんていう親子の体験はないのでしょうか。  そういえば、親子で手を繋ぎ歩いて保育園にくる園児は少なく、自転車や車での登園が多くなったように思います。回転寿司の「にぎり」の魚の名前はよく知っていても、家庭でつくる「ちらし寿司」を知らない子どもたち。給食のミニトマトは嫌いでも、自分たちで育てた園庭のミニトマトなら、もぎ取って、匂いをかいで皆と一緒に「甘いね」とパクリとできるのです。

 絵本『トマトさん』(田中清代/作、福音館書店)を読んでもらった後は、プール遊びをして、トマトさんもこんなに冷たくて気持ちがよかったんだね! とトマトさんの気持ちに納得しています。そして『トマト』の歌をうたい、トマトって上から読んでも下から読んでもトマトだと喜ぶ子どもたち。2番の歌詞にある、≪小さい時には青い服、大きくなったら赤い服≫には、「おしゃれだね」とまたまた納得の様子です。ボーっと過ごしていたら見落としてしまう、何でもないような体験をたくさん積み重ねていってほしい、とつくづく思うのです。  
 後日談―  長女にこの原稿を見せると、娘は「私も男の子のように思っていた」と言いました。私はビックリ仰天しました。娘は「空の色はしょっちゅう変わるし、ふしぎな空色の種やから、元の色は何色かなぁと思っていた」と言うのです。「そんなこと、私に言わなかったやないの」と言うと、「何色かなぁ、といつも楽しんでいたんよ」と言われてしまいました。もしかして、男子たちもそんな思いだったのかなぁ……。  
 絵本を通して想像の世界はぐーっと広がっているようです。でも誰もその世界を目で見ることはできません。子どもたちの想像の世界を見守り、大切にしていきたいと思います。
(はっとり・せつこ)
 梅雨の間に七夕を迎えます。皆さんは七夕飾りを楽しみましたか? 我が家は毎年、マフラーや『たなばた』(福音館書店)という絵本を飾り、季節を楽しみます。    
 我が子が小さかった頃は折り紙などで笹飾りを作りました。幼稚園に入ると持ち帰ってきた笹飾りを楽しみました。小学生の頃にはしだいにしなくなりました。ところが近年、七夕が近づくにつれて「飾りが何もない」ということが寂しく思えてきました。ふと思い立って私の願いのこもったマフラーや絵本を飾ってはみたのですが、少し違和感を感じました。

 なぜ、冬に使うマフラーを七夕飾りとしていたのかというと、我が子が通っていた幼稚園にきっかけがありました。その幼稚園は、「絵本」をとても大切にし、絵本の読み聞かせや絵本の貸し出しだけではなく、絵本のある生活を通して「根っこの教育」を進めていました。ですから、たくさんの絵本が所狭しと並んでいます。  
 ある時、上の子が『ペレのあたらしいふく』(福音館書店)を何度も借りてくることがありました。「また」と思いながらもきっと好きなんだなと思い、何度も読んでいました。初めて手にする絵本でしたが、読み聞かせをしているうちに、我が子だけではなく私にとって、とても愛着のある一冊となりました。それにとどまらず、実際にやってみたくなったのです。主人公のペレと同じように毛刈りから一通り丸ごと全部を!   下の子の小学校入学を待って、念願の「草木染め・織教室」に通い始めました。近くの動物園での毛刈りから始まり、その羊毛を染めたり糸にしたりと九ヶ月もの月日を費やして、メイド・イン・藤川の一枚のマフラーを織り上げました。  
 私が実際に体験することで、更にこの絵本の世界感を実感することができ、何にも代えがたい印象に残る体験となりました。今から思えば、我が子といっしょに『しろくまちゃんのほっとけーき』(こぐま社)を読み、実際にホットケーキを作って食べて楽しんだことと同じなのだと思います。  
 この体験を、地元の公民館の「市民企画絵本講座」で伝える機会をいただきました。絵本を通して体験することの大切さ、親子で体験を共有でき、何でもやりたいと思えばできること、この体験を伝えることで、少しでも、子育ての中にはしんどいこともあるけれど、明るい希望と夢を見ることもできるという気持ちを感じてもらえたと思います。

 七夕の由来を調べている時に、室礼(しつらい)の先生のお話を聞く機会を得ました。生活の中で行う五節句の飾りは「見立てが大事である」と学びました。古き良き物を正確に残すことも大切ですが、今となってはうまく伝承されていないこともあり、できないこともあるようです。それよりも、その習慣を現代の生活に合わせて暮らしに取り込み、心豊かな生活を送ることが大切なのではないか。わざわざその飾りを「買う」のではなく、家の中にある物をそれらしく使うことで立派なお飾りになるという内容でした。  
 伝統を受けつぐというのは「形」だけではなく、脈々と流れる文化を受け継ぎ、伝えていくことが大切なのだと改めて思いました。そのためにも、絵本講師として日々研鑽を積み、現代の生活に合った文化を伝えていくことが、古き良き文化の継承になるのではないかと考えています。そういう意味では、我が家の七夕飾りは、あながち間違いではなかったのではないかと思っています。           

 今年の旧暦の七夕は八月七日です。「短冊」ではなく、古から伝わる「梶の葉」を紙で作り、願い事を書いてみませんか? まだ間に合います。この七夕飾りの文化にちょっとだけ触れてみることで、新しい自分と出会えるかもしれません。  そして次の日は立秋。暦の上では、もう秋です。読書の秋です!
(ふじかわ・きよえ)