絵本体験記282 「親と子の心のつながり」 田中 倫子(東京都)

わたしの絵本体験記

~絵本フォーラム第127号(2019年11.10)より

親と子の心のつながり
田中 倫子

 無事に出産を終え退院した日。初めての育児に不安いっぱいだった私に、母が絵
本をプレゼントしてくれました。『いない いない ばあ』(童心社)、これが息子と読 んだ最初の絵本です。これをきっかけに、少しずつ色々な絵本を読むようになりまし
た。そしてある時、ふと幼い頃に母に絵本を読んでもらった記憶が蘇ってきたのです。 それは私にとって、改めて母の愛情を感じた瞬問でもありました。子どもと一緒に絵本を読むというのは決して片手間ではできません。子どもと1対1で向き合う時問が必要です。 だからこそ母と過ごしたその記億に心があたたまり、母の愛情を感じながら息子と絵本を読む時問は、とても心地良く幸せです。

 息子ももうすぐ3歳。 最初はなんとなく始めた読み聞かせも今では日常となり、今日はどの絵本を一緒に読もうかなと考えるのも毎日の楽しみです。 絵本を開くと、そこには息子との思い出がたくさん詰まっています。息子の言葉がまだ出なかったころ、台所にいた私のところにりんごの絵が描かれた絵本を持ってきて、その絵を指差し一生縣命何かを訴えてくるのです。りんごを息子に差し出したときの満面の笑みと美味しそうに食べる姿は、今でも忘れられません。今では登場人物になりきることもあり、絵本を通して息子の成長を感じるようになりました。 いつかひとりで本を読む日が来ると思いますが、この かけがえのない時問をできる限り長く積み重ねていきたいと思います。

(たなか・みちこ)

絵本体験記281 「絵本と子育て」 今泉 ちはる (大阪府)

わたしの絵本体験記

~絵本フォーラム第127号(2019年11.10)より

 年の離れた弟に絵本を読んであげているうちに、私は絵本が好きになりました。
結婚して息子を授かったころ、たまたま弟と子どもの頃の思い出話になり、私が弟に絵本を読んでいたことを弟はよく覚えていてくれました。大事な思い出の一つに
なっていたことが嬉しくて、自分の子どもにも絵本を読もうと思いました。

 息子は、今ー歳10ヶ月になります。ー歳半くらいから読んでほしい絵本を自分で本棚から取り出し「どーじょ」と私や夫に持ってくるようになりました。ー日に20冊、30冊と読む日もあります。「どーじょ」は息子が大好きな絵本 『くだもの』 (平山和子/さく、福音館書店) から覚えた言葉です。 繰り返し読み聞かせるうちに、何かを渡すときには「どーじょ 」と言うようになりました。息子が「どーじょ」と絵本を持っていくのは私と夫だけではありません。時々遊びにくる両親にもです。 息子にとって絵本は、身近な人とのコミュニケーションツールになっているょうです。

 また、『かみさまからのおくりもの』 (ひぐちみちこ/さく、こぐま社) という絵本には「かみさま ありがとう」という言葉があるのですが、そこでは息子もいっしょに「あーとー」と言います。「あーとー」と言う息子の表情はとても優しく、「ありがとう」 という言葉は嬉しい言葉だとわかっているのだと思い、心の成長も感じています。

 私たちにたくさんの喜ぴをくれる絵本。これからも、息子と一緒に楽しく読み聞かせをしていきたいです。

(いまいずみ・.ちはる)

絵本体験記280 「くっきりはっきり生き続ける思いで」 富永 惠未 (兵庫県)

わたしの絵本体験記

~絵本フォーラム第126号(2019年07.10)より

 絵本と聞いて、一番に思い浮かべるのは『みにくいあひるの子』である。

幼い頃、私は布団に入る時毎晩のように「この本を読んでほしい」と母に頼んでいた。 私にとって、絵よりも文字の方が多い初めての絵本だった。繰り返しこの本を読んでほしいとせがまれる母は少し面倒くさそうだったが、どうしてもそれを読んでもらいたかった。

なぜなら、その本は長くて、母が途中で寝てしまうので話の結末がさっぱりわからなかったのだ。

仲間にいじめられて悲しい気持ちになっているあひるの子の哀れな描写のあたりで、母はいつも力尽きて意味不明な寝言を口走って寝てしまうのだった。私は必死で笑いをこらえて寝ようとするのだが、あひるの子の結末が気になって仕方がなかった。そして次の晩に再チャレンジするのだが……。

毎晩読んでもらっても結末に辿り着けず、あひるの子が最後は美しく大きな白鳥に成長して幸せになるという事を知ったのは、自分で字が読めるようになってからのことである。

最後まで自分でこの絵本を読み切った時は、達成感と話の顛末に大変感動したことを覚えている。今から思えば母には多種多様な絵本を読んでもらった。『はははのはなし』、『スカーリーおじさんの働く人たち』など。

絵本は母との濃厚な思い出となって半世紀近く経った今でも私の中に残り続けている。いつもは家事で忙しい母が、ゆっくりと自分に向き合ってくれる貴重な時間。それを幼心に大きな喜びとして感じることができていたからこそ、今でもその思い出が私の中にくっきりはっきりと生き続けているのだろう。
(とみなが・えみ)

絵本体験記279 『絵本で子育て』がスタート 青木 絵実子 (北海道)

わたしの絵本体験記

~絵本フォーラム第126号(2019年07.10)より

 私は幼い頃から絵本が好きで、母に読み聞かせをしてもらったその時間は、今でも大切な思い出となっています。大人になってからは、絵本から遠ざかっていましたが、地域で読み聞かせを行う機会があり、その中でお子さんが楽しそうに絵本を見て、真剣に読み聞かせを聞いてくれる姿に「絵本ってこんな力があるんだ!」と、改めて絵本の魅力に気付き、私も再び様々な絵本を読むようになりました。 

 そんな私もつい先日、娘を授かり、いよいよ『絵本で子育て』がスタートしました。娘がお腹にいるとわかった時は本当に嬉しく、その頃の私の楽しみといえば、本屋さん巡りをして、娘に読んであげたい絵本を見つけることでした。「将来は絵本が大好きな子に育って欲しいな」と思いながら、色々な絵本を手にとっては、娘と一緒に読むことを想像し、ワクワクしながらその時間を楽しんでいました。

 それと同時に、胎教として、お腹に手を当てながら娘へ読み聞かせを行うようにもなりました。時がゆったりと流れていくようで、心身共にリラックスでき、とても良い思い出となりました。

 娘が産まれてからは、毎日が慌ただしく、慣れない子育てに不安を感じる時もありますが、母親となった今、念願だった娘に読み聞かせをする時間が1番の楽しみになっています。まだスタートしたばかりの『絵本で子育て』ですが、親子で触れ合いながら、絵本のある生活を楽しんでいきたいと思います。
(あおき・えみこ)

絵本体験記278 「ブックスタートによせて」小曳 昌子 (京都府)

~絵本フォーラム第126号(2019年07.10)より

 ブックスタートに携わり子どもたちに触れあって10年が過ぎました。我が子の子育て中は無我夢中で気づけなかった事が沢山あります。

 一歳前の子どもたちが『いない いない ばあ』の絵本に身体中で感情を表現する様子を見ると読み聞かせをしている私も嬉しくなります。お母さんに抱っこされその膝の上で足をバタバタさせて喜んでくれるのです。

 「ばあ」のことばに、一生懸命絵を見ている子どもさんや、絵本に興味しんしんで近寄ってきてくれる子どもさんなど反応は様々です。みんな違ってみんないいということを実感しています。あまり読み聞かせをしていない方や、絵本を閉じたり開いたりなめたりして読み聞かせに関心をしめさないと心配されるお母さんもいらっしゃいます。成長のペースはそれぞれです。色々含めて、すべてが親子のコミュニケーションを育てるうえで大切なことだと今は自信を持って言えます。まずは絵本とのコミュニケーションをお母さんも楽しんでもらえたらと思っています。

 ブックスタートに参加するうちに思い出したことがあります。子育て中『泣いた赤鬼』を読んでいて、私自身が胸に迫ってくるものがあり言葉につまった時に、涙ぐんでいた息子のこと。『三びきのやぎのがらがらどん』を繰り返し繰り返し読んで、絵本がしわになっていること。あの頃の私自身に出会うのです。幸せな気持ちになります。絵本を通して心が動くときを発見できるブックスタートをこれからも続けていきたいと思います。
(こびき・まさこ)