子ども歳時記134 新しい年に向けて(舛谷 裕子)

桝谷 裕子
桝谷 裕子

 新しい年になりました。昨年は、新型コロナウイルス感染拡大防止のために長期にわたり自粛生活を強いられ、“新しい生活様式”の中で生きていかなければならなくなりました。戦後生まれの私はとても不自由に感じましたが、戦争体験者、疎開を経験されている方とお話をすると、暗い防空壕の中でもなく、食べるものもあり、自由に会話もできるので当時ほどではないと言われており、思いがけず戦争の恐ろしさを改めて思い知らされました。“新しい生活様式”の中でも、新年らしい清々しい気分を味わいたいものです。

  新しい年を迎える時によく読んでいた本が『みるなのくら』でした。親になり子育て中に買い求めた絵本でしたが、子どもの頃に読んでもらっていたお話と少し違っていました。子どもの頃に読んでもらっていた本は、座敷が十三あり十三番目の座敷を見てはいけないというものでした。他に四番目の倉を開けてはいけないという本もありました。どちらも、なぜかとても好きなお話でしたが印象が違いました。幼い頃、母に「十三番目と四番目のお話はどう違うのか」と聞いたことがありました。どちらのお話も結末は、『みるなのくら』と同じでした。母は「最後も同じなので、どちらも同じお話」と答えましたが、幼い私はとても不思議な気持ちになりました。

みるなのくら
みるなのくら

 今になれば、全体を貫く基本的な概念は同じなので、座敷や倉の数の違いは大きな問題ではないと思えます。しかし、四つの倉だとすぐに終わってしまうので、私は十三番目まであるお話の方が好きでした。次はどんなお座敷だろうとわくわくしたことを今でも覚えています。初めて読んでもらった時に十三番目の襖を開けた場面で、とても驚いたことも覚えています。無邪気に十三番目の座敷に期待していたので、時が止まってしまい茫然自失、虚無感にとらわれました。結末がわかった後でも何度も読んでもらいました。何度も読んでもらっていると、この若者はなぜ見てはいけないと言われているものを見てしまったのだろうと思うようになりました。そして、最後の襖を開けなければ、何度でも他の座敷を見て楽しめていたのにと思いました。年齢を重ねると、この若者を愚かだと感じたり、責めたりする感情も芽生えました。さらに成長すると、今度はこんな人って身近にもいると思うようになりました。大人になり子どもに読んだ時は、久しぶりでとても懐かしく思ったと同時に、この若者に対して同情するような気持ちになり、側にいたら慰めたくなるようなそんな感情にもなりました。

 絵本はとても不思議です。読む時の年齢や感情によって同じ本でも感じ方が違います。そして社会状況の変化によっても感じ方が違います。さて、10年後に読んだ時、どう感じるのか。自粛生活は大変だったけど、今は幸せだよねといえる世の中であってほしいと願います。
(ますたに・ゆうこ)

『みるなのくら』(おざわとしお/再話、赤羽末吉/画、福音館書店)