子ども歳時記128「久しぶりに出会った絵本」倉冨 展世

倉富 展世
(倉冨 展世)

 あけましておめでとうございます。お正月はいつも駅伝をテレビで観戦することから始まる私。ずっと変わらず楽しみにしているお正月行事の一つです。皆さまのお正月はどのように始まりましたか。

スイミー
『スイミー』
(レオ・レオニ/作、谷川俊太郎/訳、好学社)

 少し前のことになりますが、11月のある土曜日の昼頃、庭の手入れをしていたら小学生たちが学校から帰ってきていました。とても賑やかに楽しそうに話しながら……。保護者らしき人と帰っている子どももいました。あぁ、そうか。学習発表会があったんだと合点し、そんな時期なのだなと懐かしく思いました。

 すると2人で帰っていた男の子の一人が庭にいた私にフェンス越しに近づいてきて「なんしようと?」と声をかけてきました。もう一人の連れの子は少し離れた後ろで不安そうに立っています。「お花を植えようとよ。今日は学校やったと? 学習発表会?」と聞くと「そう!」と元気に答えてくれました。「何したと?」と聞くと「スイミー!」という返事が返ってきました。

 思いがけず、なつかしい絵本に出会えました。「それ、知っとーよ。『ぼくが目になるよ』やろ?」と自慢げに私が言うと、その子は「2年生の時にしたっちゃろ!? やっぱね! いっしょやん!」と満足そうです。「じゃーねー!」と元気に去っていくその子に「気をつけて帰りーね!」と声かけすると「うんっ!!」ととびきりの返事が返ってきました。学習発表会でうまくいったのでしょうか。ちょっと興奮気味のその子との会話にこちらも心が弾みました。まっすぐに私の目を見て話す、多分、近所に住む誰かさんとのほんのちょっとのコミュニケーションに、昔、子どもに読み聞かせしていた絵本が仲介役をしてくれました。台詞まですっと出てきた自分にも驚きました。ああ、こんなことで役に立つこともあるのだなと思いました。

 『子どもに絵本を届ける大人の心構え』(藤井勇市/著)の中の一文に「大人がいない社会」というのがあります。藤井氏は、大人の定義として3つあげています。自分が無知であることを理解する能力、周りの環境を良くすることを黙って行える能力、そして自分や家族と同等に他人を大事にできる能力。まだまだできていないと感じた私ですが、この近所(に住んでいるであろう)の子どもたちとのコミュニケーションは、その小さな一歩になればと思いました。「お帰り」「行ってらっしゃい」「気をつけてね」。知り合いでも何でもない人の中にも信頼しうる大人もいるのではと少しでも思ってもらえれば嬉しいです。

 庭に植えた花が道行く人の目を楽しませるように、身の回りの小さなふれあいを大切に することが世の中をうつくしくし、子どもたちの過ごしやすい社会につながればと思います。

(くらとみ・のぶよ)