絵本講師の発言席 65『一生勉強、一生不悟』久嶋 志帆(絵本講師)

久嶋 志帆
『一生勉強、一生不悟』久嶋 志帆(絵本講師)

65.絵本講師の発言席 『一生勉強、一生不悟』

 今は主に情報を得る為に用いているツイッターを開いて、今日も溜息。闇の深い方へ転がって行くようにしか思えない私たちの国に戦慄し、その一端を担う者として悔しくて焦る気持ちはあるけれど、毎日ご飯を作り、仕事をし、お迎えに行き又ご飯を作り、子どもと一緒に寝てしまい、朝方、やり残した家事を……。そんな生活の中で、私に出来ることは何か。考える日々です。

 4月に絵本講師の名刺を作ってから半年。講座をさせていただく毎に、自分の小ささと無知を思い知らされ、それでも、今の自分だから伝えられることがあるはず、と自分を奮い立たせてやってきました。『絵本を読んであげましょう』(森ゆり子/著 NPO法人「絵本で子育て」センター)に出会い、「絵本で子育て」センターを知り、子どもとは、子育てとは、読み聞かせとは……と、正解のない問題に向き合う日々は、発見や驚きに彩られ、鮮やかです。

 高校卒業と同時に上京し、子どもを授かるまで、役者(声優)という仕事に全力で人生を捧げてきました。とても刺激的で面白い毎日でした。その反面、私はずっと不安でした。自分に対する不満、不安。何の保証もない、綱渡りの世界で、常に何かに追われている精神状態。そんな自分が、結婚し、母になり、未知の生命体、赤ちゃんを授かり……。頼れる人も居ない、ザ・核家族の私たち夫婦は、紆余曲折しながら2人の子どもを育て、私たちも親として育てられてきました。手探りの匍匐前進、泥と食べ散らかしと涙と鼻水に塗れ、寝不足と疲労と不安で押し潰されながら過ごした日々。けれどそれは、とても人間らしい、何物にも変えられない大切な経験だったということを、今は実感しています。

 子どもを授かってから世界を見る目が180度変わり、子育てを続けるうちに、子どもに安心、安定を与える為にはまず、自分が安定しなければならないことを痛感しました。けれどもこれが大問題で、私は、自らの自己肯定感の低さに向き合わなければなりませんでした。自分を認め赦すこと、自分の人生を愛すこと……。

 こんな仕事をしていますが、実は子どもの頃からコンプレックスだらけの私。人ってなかなか変われるものではないですけれど、そんな私に、絵本講師に向けての勉強が自信と希望を与えてくれました。確かな学びが、七転八倒の子育てから得た様々な自身の経験の大きな後ろ盾となってくれました。そして、とうとう私は私の人生を愛そうと思えたのです。

 それからは不思議なもので、世の中や物事を少し俯瞰して見ることが出来るようになり、子育ても仕事も、要らない力を抜いて取り組めるようになってきたように感じます。視野も広がり、子ども達を愛おしいと感じる瞬間が増えました。
 
 「読むのも勝手、聞くのも勝手」松居直さんのお言葉ですが、5歳の娘に読み聞かせしていると、最近はあまり絵本を持って来なくなった小学2年生の息子も、自分が聞きたい場面ではスッと寄ってきます。そんな瞬間に、私にも子どもたちにも温かいものが流れていることを実感し、家族の蝶番の役目をしてくれる絵本に感謝します。絵本を子育ての頼れる相棒にして欲しい。そして子どもが愛おしいと感じる瞬間を沢山作って欲しい。それが、私が絵本講師として伝えたいことです。
 
 これを書いている今日、香港では自由を求める若者たちに警察が銃を向けています。私たちにも見えない銃が突き付けられているのではないでしょうか。子どもたちと彼らが生きる未来を守りたい。知への扉を開いてくれるのは本です。本の扉への鍵が絵本です。私たちは、本を携え、与えられる情報から真実を探すことを諦めてはならず、考えることを止めずに歩まなければと思います。
(ひさじま・しほ)