飫肥糺 連載133 国連憲章・日本国憲法に正しく適う国がありました 『せかいでいちばんつよい国』(光村教育図書)

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無理筋の大義をふりかざして一方的に武力侵攻した大統領プーチンのロシアとNATO諸国をはじめ世界各国に武器供与を要請して徹底抗戦をきめた大統領ゼレンスキーのウクライナ。両国の戦争はつづく。戦場となったウクライナの都市は破壊され、罪のない市民たちまで巻き込んで死者や負傷者が累々と積みあがっている。

ところで、ふたりの大統領は、いったい人命をどのように考えているのか。人命より国家の方が優位だというのだろうか。報じられる残酷で悲惨な実態を連日のように目にする。暗然となるのは、ぼくばかりではないと思う。

ロシアの武力侵攻、ウクライナの武力抗戦、欧米諸国の武器供与を、ぼくらはどう考えたらいいのか。国連憲章は第2条4項で「すべての加盟国は、その国際関係において武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」と規定している。しかし、ロシアの拒否権にあい、国連は機能せず。関係諸国のあいだにも停戦を働きかける具体的な動きはない。

絵本の世界はまっすぐに戦争をきらう。『せかいでいちばんつよい国』は、軍隊放棄、兵も武器もない国が無法な侵略国家と対峙したらどうなるかと、ひとつのすごい回答を提示する。

物語は、他国征服をめざす大きな国と軍隊をもたず、国連憲章を正しく守りつづける小さな国のあいだに起きた侵略騒動(?)。ちょいとおもしろい滑稽譚。小さな国には軍隊も武器もない。あるのは暮らしの豊かさと平和な社会だけ。働き者でおしゃべり好きの国民性は、ゆかいな遊戯や音楽など古くから伝わる文化・文明に親しむ。人びとの表情はどこまでも明るい。幸福度が高く平和な国とはこんな国をいうのではないかと、ぼくは思う。

そこに小さな国を征服しようと企てる大きな国が現れる。大きな国の大統領は「世界中の人びとを幸せにするために」と勝手な大義をかかげて国々を征服してきたというとんでもない不届き者。こんなふざけた大義で侵略される国なんてあるはずもない。そう思いながら21世紀の現在を俯瞰すると世界各地で戦争や紛争が起こされている笑いとばせない実際がある……。背筋が寒くなる現実ではないか。

作者デビッド・マッキーは、現実世界の混沌と平和へのメッセージをテキストやイラストの裏面にしのばせて絶妙のゆかいな滑稽譚に描きあげている。

さて、大砲装備で軍隊をひきつれ進軍した大統領は拍子抜けする。勇んで気勢をあげても、軍隊のない小さな国の人びとは兵士たちをまるで怖れない。それどころか、大歓待してくれたのだ。これでは戦争を起こせない。戦意を失った大統領と兵士たち。歓待に応じたかれらは、村人たちとしばらく暮らしをともにする。

よほど暮らしやすかったのか、小さな国の暮らしになじんだ兵士たちは、村人たちとおしゃべりをはずませ、古くから伝わる昔話や歌を楽しみ、石けり遊びに興じた。さらに野良着で畑にとびだし村人たちといっしょに働いた。攻守を変えて形勢一変、兵士たちは小さな国の人びとから豊かな暮らしの知恵や楽しみ方を学んだ。

やがて、戦うことなく大統領や兵士たちは帰途についた。そこで、大きな国の人びとの暮らしも一変した。家々からは小さな国の料理の匂いがただよい、人々がつどう広場では石けり遊びがはやりだす。

あの征服欲にとらわれていた大統領もすっかり変わる。なにしろ、息子にせがまれて唄う歌は、きまってあの小さな国の歌だったというのだから……。裸の王様にもピエロのようにも見えてくる大きな国の大統領。武器を捨て軍隊もなくしたのだろう。軍隊も武器もなければ戦争なんか起こせない。

……さぁ、大きな国と小さな国。どちらが強い国だったのだろうか。自明だと思う。

小さな国のありようは、ぼくらの国の憲法に正しくかなう。日本国憲法第9条1項は「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と規定する……。

『せかいでいちばんつよい国』(デビッド・マッキー:作/なかがわちひろ:訳/光村教育図書)