飫肥糺 連載131 先入観をくだかれて…、意識改革から働き方の改革へ 『めねぎのうえんのガ・ガ・ガーン!』(合同出版)

障がい者人口が年を追うごとに増加している。2018年の内閣府調査では940万人。高齢者の増加が一因であるが現代という社会環境の要因も大きいという。子どもたちの状況も例外ではない。2007年の学校教育法改正により養護学校・盲学校・聾学校は特別支援学校と呼称されるようになった。もちろん、目的は対象となる幼児・児童・生徒がそれぞれに幼稚園・小中学校・高等学校に準じた教育を受けることができること、学習・生活上の困難をのりこえて自立できるような教育支援をすることだ。


しかし、わが国では未だに障がい者に対する偏見が根づよく存在する。ぼくらは、「差別や偏見がある・ある程度あると思う」と回答する人が83.9パーセントにもなる現実を知っておかなければならない(「障害者に関する世論調査」2017年内閣府)。

近年、性別・人種・障がい・宗教・嗜好などさまざまな属性の人びとが集い活動するダイバーシティ(多様性)の考え方が社会に浸透する。パラリンピックでさまざまな障がいを持つアスリートたちがすばらしい活躍を見せた。だが、障がいのあるなしに関わらず多様な属性を持つ人々がおたがいを認めて生きる開かれた社会はまだまだではないか。

 

一方、つぎのように「いいね‼」と手を打ちたくなる、いい話もある。多屋光孫がそのいいお話を愉快な語りと絵解きでノンフィクション絵本『めねぎのうえんのガ・ガ・ガーン』に仕上げている。


――― 鈴木さんは400年もの昔からつづく農園の13代目。握り寿司のネタなどにするメネギを主に生産する。見た目よし形よしのおいしいブランド品だ。鈴木さんは20年ほど前、障がいを持つ男子生徒のあかさん・女子生徒のあおさんの二人を連れた特別支援学校の山田先生の訪問を受けた。二人を農園で働かせてほしいというはなしだった。鈴木さんには二人がちょいとたよりなく見えたらしい。


ここで根拠のない先入観が鈴木さんをおそう。「この子たちにうちのメネギが育てられるわけがないだろう」と決めつけるやるせない先入観だ。で、鈴木さんは「どう言って断ろうか」と策をめぐらした。山田先生に<メネギを育てるには長年の訓練が必要なんです>、<苗にさわらずに苗のついたスポンジをトレーにすばやく植え込むことができなければここでは働けません>とやんわりと難癖をつけながら対応する。だが、先生は一週間後に苗の下に差し込むと簡単に植え込める下敷きを工夫して作ってきた。工夫考案する凄みに鈴木さんは「ガーン」と頭を打たれた思いだった。


二人には、試しに働いてもらうことにした。あかさんには100個あるトレーを「ちゃんと」洗うように。あおさんにはハウスの掃除と草取りを、たのんだ。

あかさんはトレーを洗いにかかる。1時間たっても1個目を「ちゃんと」洗いつづける。鈴木さんは「これじゃあ、終わらないよ。うちで働くのは無理」とダメだしするが、先生は「『ちゃんと』とはどういうことでしょうか。どこを何回、どんなふうに、と具体的に伝えたら…」と再度、示唆。そこで、「トレーの上を3回、反対側を3回、水で流しておしまい」と教えると、あかさんの作業はどんどんはかどりだすではないか。ここでも鈴木さんの頭は「ガ、ガーン」と打たれることになった。


かたや、あおさんの掃除は2歩歩いて立ちどまる、ゆっくりゆっくりのペース。けれどあおさんの掃除や草取りは、しっかりていねいで、草ぼうぼうだったハウスはすっかりきれいになった。加えてメネギを枯れさせる虫まで減らしていたのである。またまた、「ガ、ガ、ガーン」である。鈴木さんは三たび感服する―∸―

 

先入観をすっかり打ちくだかれた鈴木さんは、以来、「人を仕事にあわせるのでなく、仕事を人にあわせればいいんだ」「仕事ができる人をさがすよりも、みんなが働きやすくなる工夫をさがそう」と、自らを意識改革する。働き方改革に挑む。かくして鈴木さんは、あおさんのゆっくりを活かした農薬不要をうながす「虫トレーラー」を、あかさんの仕事を楽にした「トレー洗いロボ」を発明する。農園では新しい工夫がつぎつぎに生まれてゆく。


描かれた特別支援学校の山田先生、農園経営者の鈴木さん。ふたりの示唆する言葉や対話の実際は、障がいのあるなしに関わらず、ともに働き自立する豊かな集団の生き方の一例として楽しく学べる恰好の教材になっていると思う。

 

『めねぎのうえんのガ・ガ・ガーン!』

多屋光孫/文・絵 

合同出版