こども歳時記
〜絵本フォーラム第29号(2003年7.10)より〜
稲妻に、懐かしい夏の思い出を
 もくもくと入道雲のわきあがった空が、突然暗くなったかと思うと大粒の雨。雷鳴が鳴り響き、空にひびが入ったかのように稲妻が走ると、悲鳴を上げてお母さんにくっついていた幼い日々を思い出します。お母さんがしっかりと手をつないでくれているだけで、不安やおびえがやわらいでいったことをあなたも覚えているでしょう。私たちは子どものころから、こうした日常のひとこまからも、人智の及ばない畏れを感じたり、自分を守ってくれる者の存在を感じたりしてきたのです。不安や恐怖、安心や喜び、いろいろな感情がわいてきて、心が揺さぶられ、情緒が豊かに育ってきたのではないでしょうか。

『東京ガラパゴス』
(講談社)
 テレビやビデオなどの映像は、とりわけ幼い子どもたちにとってはテンポが速すぎて、ゆっくり心で感じる間もないのかもしれませんね。絵本だと、時間の流れは子どもに合わせられるでしょう。前のページを再確認したり、お母さんと一緒に納得がいくまで同じ場面をじっくり見たりすることもできるのです。それは子どもたちの心に、テレビやビデオでは決して味わえないような強い体験として、深く刻まれていくことでしょう。
 人が機械や物を使いこなすのです。それらに振り回されるなら、そんなものは便利なようで不便なだけ。 『東京ガラパゴス』(千世まゆ子作、吉田純絵/講談社)を読むと、機械や物などに振り回されていた自分に気づくかも。
 母親の転勤で、東京から小笠原に転校することになってしまった5年生の男の子のカルチャーショック。同じ東京都内のつもりが、「大阪や九州よりも遠い、はるか千キロも海のかなたに東京都の村があることを、翔は出発寸前まで知らなかった」まるで島流しにあったような気分になったのだが…。夏休みに親子で読みたい楽しい本の一つです。
伝えよう、私たち大人も忘れないために

 そしてこの時期、私たちが忘れてならないこと、伝えていかなければならないことも親子で知ってください。『猫は生きている』(早乙女勝元作、田島征三絵/理論社)。ちょっと長い絵本ですが幼い子どもたちにも感じとることができると思います。はげしい空襲の炎の夜を…。
 「希望にあふれた人生を、突然乱暴に断ち切られた子ども達のことを、僕たちは決して忘れてはいけない。この絵本は、そのためのアルバムだと思って僕は描いた」(画家のあとがきより)。平和学習の授業さえカットされることが増えたこの時代、決して繰り返してはならないことをいつまでも忘れずにいるために、歴史の先輩として私たち大人が、子どもたちに伝え続けていかなくてはならないことがあるのではないでしょうか。

『猫は生きている』
(理論社)

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