一日半歩

“大人は「ヘルス・プロモーション」を
伝えているか?”


 ヘルス・プロモーションとは、「自分自身で自己の生活を考え、自己の心と身体の健康を養い守っていく」ということ―。簡単に言うと、「自分を大切にする」ことである。
 ところが現実は、野菜を毛嫌いし、魚を敬遠し、海草や豆類に手をつけようともしない子ども達が、“ナンバーワンよりオンリーワン、かけがえのない自分を大切にしよう" と歌っているのだから、笑ってしまう。
 現代の子ども達に差し迫った問題は、何と言っても食生活である。すなわち、ビタミン・ミネラル・食物繊維の不足である。その実態は、時間に追われて栄養管理ができない親と、好き嫌いだけで口にする物を決めてしまう子どもの姿。さらに心配なのは、食事につきもののコミュニケーションすら大切にされていない家族の姿である。
 すなわち、高カロリーで動物性脂肪に富むカレー・ハンバーグ・スパゲッティー・焼き肉が食生活の中心で、緑黄色野菜・魚・海藻類・豆類・牛乳などの摂取が少ない。嫌いなものは平気で残し、インスタント食品・スナック菓子・清涼飲料水・ジュースなどの間食が多い。家族一緒に食事をとることすらままならず、朝食ぬきで学校へ行く子どもまでいる。こうした食生活のせいで「憂鬱、無気力、イライラ、キレル」という子どもが増えていることは、既に多くの調査結果から明らかだ。

食生活と関連して、もう一つの大きな問題は子ども達の生活リズムである。
 すなわち、乳幼児のうちから夜遅くまで起きている。いや、共働きの親が多い中、親の生活時間に幼い子どもを巻き込んで、むしろ起こしていると言った方が良いだろう。夜十時過ぎに、幼児を連れてコンビニへ買物をしにくる若い親の姿を見ると、私はゾッとする。小学生になるとテレビやゲームに興じたり、塾やスポ少で帰宅が九時半になったりで、寝るのは十一時過ぎという子どもも少なくない。なんと我が国の子どもの平均睡眠時間は、他の先進諸国と比べて一〜二時間は少ないのである。
 夜遅くまで起きていれば、スナック菓子や清涼飲料水に手がいってしまう。当然、早起きはできず、朝食も十分とれない。実際、朝ご飯を食べずに登校する中学生や高校生は、既に一割を超えている。すなわち、生活リズムは食生活とも直結するのである。

 『あさごはんからはじめよう(すずきさちこ/作、講談社)』という絵本が出た。「げんきのおまじないは、はやね はやおき あさごはん」というキャッチフレーズで、食事の大切さと生活リズムの基本について分かりやすく楽しく書いてある。子どもに読み語りをしながら、親にも心して欲しい内容だ。それにしても、こんな当たり前のことを絵本にしなければと決意した作者の胸の内を考えると、私は複雑な気持である。
 不規則でバランスの悪い食事や生活リズムは、成長過程にある子ども達の心と身体を蝕み、心身症の一因にもなっている。だからこそ、子ども達にきちんと伝えて欲しい。ヘルス・プロモーション(自分を大切にする)の基本は、健全な食生活と生活リズムであることを―。

「絵本フォーラム」44号・2006.01.10

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