リレー

輝く笑顔に会いたくて
(野口 明子)


 「あのね、プレゼント……」小さな手に大切に握られていたのは、小さな緑色のドングリ。台風が近づいているので、今日はかなり強い風が吹いています。わが家の横にあるウバメガシの木が風に枝をしならせています。私がもらったドングリは小さくて、まだまだ枝にくっついていて、もっと大きく育ちたかったに違いありません。強風にあおられ、耐え切れずにポトリと落ちてしまったところをAちゃんに拾われたのでしょう。2歳になったばかりのAちゃんは、そのドングリをいとおしむように手のひらに握り、私のところへ届けてくれたのでした。「せんせ、ドングリ好き?」「大好きよ」私は答えながら、胸がキューンとなりました。
 Aちゃんが通ってくるキッズクラブは、いわゆるおけいこではなく、遊びながら、親子で歌や絵本を楽しむサークル。秋はドングリがさまざまな場面で登場します。先週は『ぐりとぐら』『14ひきのおつきみ』を読んだところでした。Aちゃんはドングリを拾いながら「♪どんぐりころころ どんぶりこー」と口ずさんだのでしょうか。「いっぱいひろって、くりーむにしようね」とぐりとぐらに語りかけたのでしょうか。たった一粒の木の実だけれど、Aちゃんの心の中で何かが動いたのです。絵本や語りかけや歌からメッセージを受け取ってくれたんだなぁと、私の心はうれしさでいっぱいになりました。
 モノや情報があふれる今日、本当の豊かさとはどのようなものなのでしょうか。たくさん絵本を読んでもらった子どもは、生活の中で絵本の世界を追体験したり、想像力を働かせ、いろんなことに気づく力を持っています。それを感性の豊かさと呼ぶなら、豊かな心を育てたのは絵本の力と言えます。そして、絵本をともに楽しむお母さんの愛の力。子どもたちの輝く笑顔に会いたくて、私はまた絵本を読み、歌います。
絵本フォーラム43号(2005年11.10)より

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