リレー

我が読み聞かせのルーツ(原点)
(賀古 公恵)


 「さあ、今日はどのお話を読もうかな?」
 浜田広介やアンデルセンの童話などを傍らで読む母の声が、耳に心に響いてきます。私が小学生のころの、わが家の一風景です。
 当時、私の通う小学校(大分県)では、「母と子の20分間読書」が盛んに行われていました。時代は昭和30年代後半、まだ人々の暮らしは豊かでなく、子どもたちが本やおもちゃを欲しがっても、なかなか買ってもらえなかったころのことです。
 ふだんは商売に追われて忙しい母が、週に2回、決まって読み聞かせをしてくれました。1日のうちのほんの20分間でしたが、それは私にとって、かけがえのない時間となりました。母のそばで、そのやさしい声に耳を傾けながら本の世界へ入っていく。笑ったり、ドキドキしたり、ホッとしたりと、お互いの気持ちがその場で行ったり来たりする心地よさをじかに感じられるひとときでもありました。
 その母もすでに亡く、母と過ごした日々の記憶は薄れているのに、幼いころ読み聞かせを続けてくれたことは、無意識のうちに心の原風景として今も残っています。あの20分間には、愛情のほかに想像力・表現力・言葉の美しさなど、心の栄養となるエキスが濃縮されてたっぷり入っていたのだと今、改めて思わずにはいられません。これこそが、この数年、図書ボランティアとして子どもたちに読み聞かせをしている私の原点となっています。
 子どもたちに本を読ませたい、本好きにしたいなどと堅苦しく考えず、大人と子どものコミュニケーションの時間ととらえて、楽しく読んでいます。伝えたいのは、本を通してふれあい、心を響かせることの大切さ。だから、私はこれからも絵本や物語を読み続けます。
絵本フォーラム39号(2005年03.10)より

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