リレー

幼児期に大切なもの
(池田五月山教会幼稚園園長・松浦八恵子)


 幼児期は大きな木の根っこを育てるときであると言われています。根っこをしっかり張らせることは、将来、嵐が来てもびくともしない樹木になるために必要なことです。
 では、しっかりとした根っこを育てるにはどのようにしたらいいのでしょうか。ロバート・フルガム氏は「人生で必要なことは、すべて幼稚園の砂場で学んだ」と言っています。幼稚園という一つの集団の場が子どもの成長にとってなくてはならない場所であり、子ども同士のかかわりの中での子どもの自由な遊びがいかに大切かということを語っているのだと思います。
 子どもは遊びを通して学び成長していきます。社会性、協調性や他人を思いやる優しさなどは、管理主義のもとでは育ちにくいのです。また、子どもの豊かな感性や感情は、よい絵本との出合いを通してはぐくまれます。それらはとりもなおさず、立派な根っこを育てることにつながるものでしょう。幼児期に大切なものはそう多くはないと思います。しっかりと大切なものを見据えながら、かけがえのない子どもたちをはぐくんでいきたいものです。
 最後に一つのことをあえてつけ加えるならば、作家の柳田邦男氏が『砂漠でみつけた一冊の絵本』(岩波書店)という著書の中で、「心の危機、言葉の危機がこの国の人々を被いつつある今、絵本もまた詩に劣らぬ心の再生の役割を果たす可能性を秘めているように思う」と記しています。そして、「大人こそ絵本を!」と語っています。子どもに絵本を与える前に、子どもに絵本の読み聞かせをする前に、大人である私たちが絵本の楽しさを知っていけたら、なんと幸いなことでしょう。
絵本フォーラム38号(2005年01.10)より

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