リレー

子どもに財産を
(兵庫・霞ヶ丘幼稚園園長・加藤 澄子)


 絵本や童話の1シーンから幼き日をなつかしく思い出される方は、多くいらっしゃることでしょう。題名は忘れてしまっていても、絵の美しさや、やさしく読んでもらった情景に母親のぬくもりが重なり、ふわっと包み込まれるような心地よさを感じる……。そんな経験をお持ちの方も多くいらっしゃると思います。
 私は昨年、93歳の母を亡くしました。母が残した多くの品々の中に、母の幼いころの絵本や童話集がたくさんありました。旧仮名遣いのカタカナで書かれているこの本は、私たち兄弟姉妹が子どものころに母が読み聞かせてくれたものです。
 あらためて母を感じる感謝のひとときとなりました。
 近ごろ社会では、「子育ては大変!」「子育て支援を!」と大騒ぎですが、昔に比べ電化された生活は肉体的にも時間的にもゆとりができて、楽になっています。気持ちにゆとりを持って、焦らず子どもに添い、ともに楽しむことを考えると、子どもを授かった幸せが感じられ、子育てが楽しくなると思います。
 今、子育てまっ最中のお母さんにお願いします。幼児期はほんのひとときなのです。パートで収入を得ることより、発想を転換して、お金を使わないで、童心に返り子どもと一緒に遊ぶ楽しさも味わってください。
 近くの児童図書館などを気軽に訪ねると、美しい絵本や多くの本が並び、読み聞かせや楽しい催しが計画されていたりして、親子で夢中になれる場が見つかるかもしれません。
 また、1日の終わりの“おやすみタイム”には、ぜひ心を込めて本を読んであげてください。私は娘を育てるとき、生き物が眠りにつく様をやさしい絵と詩で表現した『おやすみなさいの本』を、毎晩同じリズムで読んでいました。読み始めると、娘は安心してすやすやと眠りにつき、その寝顔はママの幸せを感じるひとときであったと記憶しています。
 本の中のやさしさや勇気やいろいろの感動体験で豊かな心が養われ、生きる力が培われます。本好きに育てることは、子どもに大きな財産を与えるに等しいと言われます。お母さんの日々の努力で、本好きの子どもが1人でも多く育つよう祈っています。
絵本フォーラム30号(2003年9.10)より

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