ぼくの読み聞かせ教室



 今回は、本講座で取り上げた童話のなかで、学生たちが“どんな童話を”“どのような理由で”面白いと感じたかについてまとめてみた。アンケートの対象は88名(うち男子学生は1名)である。取り上げた童話は19編で名前の上がった童話は14編であった。

 一番人気は、ロシア民話の『おおきなかぶ』で20人が取り上げた。ストーリーの展開、登場人物や動物たちのかわいらしさ、みんなの努力・協力が報いられてのハッピーエンド等童話の真髄が理解されての、予想どおりの第1位である。「平和そのものである」という感想が書き加えてあった。

 第2位はまったく予想外であった。“平和”から一転して“血なまぐさい”『アリババと四十人の盗賊』で13人が取り上げた。この人気の秘密はいったいどういうことなのだろうか。“開けごま”という不思議な呪文や、盗賊たちと女奴隷のハラハラドキドキの攻防はもちろんのことであるが、学生たちが魅せられたのは、実は女奴隷モルジアーナの“頭の良さ”であったのである。つぎつぎと卓抜なアイデアで盗賊たちを退治していくモルジアーナに自分を投影し、憧れの対象にしてしまったのである。代表的な感想にいわく「私は何をするにも、遅いし、鈍いのであこがれます」と。『アリババと四十人の盗賊』を改めて『モルジアーナと四十人の盗賊』としたほうがよいとの指摘が数名からあった。

 続いて第3位は、『さるの王さま』、『人魚ひめ』のそれぞれ11人である。『さるの王さま』は、やや知名度の低いインドの童話で、サルの王さまが体を張って家来を助けるのを見て、人間の王さまが感激してサルたちを助けてやるといったお話で、自分の利益や保身しか考えない政治家、官僚や企業のトップ等のスキャンダルばかりが取りざたされている昨今の風潮を思い起こして、学生たちが感動したのは納得できる。

 『人魚ひめ』がこのあたりに上がってくるのもうなずける。現代の若い女性の意識が大きく変化したことがいろいろ言われているが、「恋愛」は、やはり彼女たちの最大の関心事であることは間違いないようである。ストーリーは誰もが知っている童話であるが、“読み聞かせ”で聞くことによって、大きくイメージをふくらませることが可能となったようである。ストーリーテーラーとしてのアンデルセンの偉大さについては、読むたびにただ脱帽するのみである。講義中に書かせた感想も含めて、「せつない」「胸がくるしい」といった表現が多用されていたことは、講義をする者にとって大変うれしいことであった。彼女たちにとっても喜ばしいことなのではなかろうかと思っている。

 第4位以下については、今回披露することができなかったが、学生たちの“見る目”は確かで、“感受性”も素晴らしいということを付け加えて最終回としたい。

「絵本フォーラム」25号・2002.11.10

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