<『きつねやぶのまんけはん』出版祝賀会( 2009/07/18) >
絵本の中に遊ぶ・中川先生の読み聞かせ

 

 梅雨の晴れ間のひととき、芦屋市民センターに賛助会員約 30 名が集う中、京都・宇治市よりお越しの中川正文先生ご夫妻をお迎えして、なごやかに出版祝賀会が開催されました。

 会は池田加津子さん (芦屋 2 期生) の司会で始まりました。

はじめに、森ゆり子理事長から、絵本講師の会で制作・出版する初めての絵本が、尊敬する作家で、当「絵本で子育て」センターの顧問でもある中川正文先生の『きつねやぶのまんけはん』(画 / 伊藤秀男)であることの有難さや、出版に至るまでの経緯・数々のエピソードを披露されました。

 花束贈呈は濱本香織さん (芦屋1期生) 。つづいて金澤栄子さん (芦屋 4 期生) の乾杯の発声が始まろうとしたとき、中川先生が「古代エジプトでは、お互いのグラスをカチンと大きく鳴らすことで、ビールに潜んでいる悪魔が退散すると言われています」というお話があり、素直な参加者はいつもより大きな音を「カチン!」「カチン!」とあちらこちらで響かせ乾杯しました。どのお顔にも“これで悪魔が退散したわ”という安堵の表情が現れていました。

 会食では絵本・『きつねやぶのまんけはん』にちなみ、山のように盛られたいなり寿司がテーブルの中央に置かれています。周りには、祝賀会の実行委員の方々が朝早くから準備してくださった、心のこもった色とりどりのお料理が並んでいます。その料理に舌鼓を打ちながら談笑の輪が広がっていきました。

 お腹 (なか) も気持ちもともに満たされたころ、大長咲子さん (はばたきの会副会長) から、三人のわが子に『きつねやぶのまんけはん』を読み聞かせた感想を話され祝辞とされました。

 続いて、おめでたい席でよく披露される詩吟『 結婚を祝す 』を有松孝子さん (芦屋 4 期生) が吟じられ、その良く通るのびやかな声音が広い会場いっぱいに響き渡りました。

 次は、フランスシターの演奏です。まだ日本ではあまり馴染みのない楽器ですが、フランスの教会で賛美歌の伴奏に使われるハープのような音色を出す楽器です(旧約聖書にもでてくるくらい古い楽器ですが、改良されていまの形になりました)。また、フランスでは、子どもの暴力性を鎮め穏やかな時間を過ごすため、授業に取り入れている小学校もあるそうです。

 坂枝寿代さん (芦屋 4 期生) のお誘いで、建石恵美子 (芦屋 4 期生) と金澤栄子さん (同) も練習を始め、本日は勉強の<成果発表>の形で演奏させていただきました。

 『賛美歌』を坂枝さんが、『ゆりかごのうた』を建石が伴奏し、四番まで全員で合唱しました。先日、美智子皇后がカナダ訪問の際、アカペラでうたわれた『ゆりかごのうた』に負けないくらいの美しい声が会場の隅々まで響き渡っていました。

本日、いちばん遠い所・宮城県仙台市から、ぜひ中川先生にお会いして講座のお礼を述べたいという熊谷みのりさん (東京 3 期生) と東京より参加された安田富美さん (東京 5 期生) から、それぞれ心のこもった祝辞が述べられました。

祝賀会はクライマックスを迎えます。

 中川先生ご自身による『きつねやぶのまんけはん』の読み聞かせが始まります。参加者は一言も聴き漏らすまいと、自分の席から先生の机の前に移動します。目を凝らし、耳を傾けます。

 絵本の中にはありませんが、創作の途上であったかも知れない「言葉」も飛び出し、物語がより立体的になったような気がしました。

先生は、ご自分で用意されていた拍子木を「カン カン カン」「カン カン カン」と鳴らして、江戸時代に村や町の辻で語られていた庶民の伝統芸能(関西では“のぞき”とか“上方節”のようなもの)の一部を再現させてくださいました。拍子木のリズムにのって出てくることばは耳に心地よく、まるで『きつねやぶのまんけはん』の絵本の世界に入っているような気分を味わわせてくださいました。

 作品に関し先生は、「生まれ育った奈良盆地のイメージはあるが、実在の村ではない。時代も特定していない。あくまで自分の心の中の世界から生まれた物語である。ただ、善教寺は生まれ育った寺であり、『まんけはん』は同級生の名前である」と話されました。

 むかしのゆたかな自然、温かな人情に囲まれて育った先生のはるかな子ども時代は、生活のなかにきつねやたぬきが身近にあり、騙したり騙されたりするお話も真実味を持って語られていたと思います。

 乾杯のとき、グラスを合わせる古代エジプトのはなしは「あれは嘘です!」と会も終わり近くなって言われたときは、参加者一同、まさにきつねにつままれたように、しばらく「キョトン」となり、やがて笑いがあちらこちらで小波のように起こりました。

先生は騙したきつねのように、その様子を見てほくそ笑んでおられたようでした。

語りは、また「騙り」でもあると感じた一瞬でした。

 先生から、今度はまじめな話として、このような交流会を次の世代に引き継ぐためにも「多くの人が参加し失敗談も伝えながら、会員同士、たえず交流してほしい」との励ましのお言葉をいただきました。

 井下陽子さん (はばたきの会副会長) の閉会のあいさつの後、引き続き会員同士が情報交換し、名残惜しいなか散会しました。



報告・建石恵美子(芦屋 4期生・たていし・えみこ)



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