「絵本フォーラム」25号・2002.11.10
最終回
電子機器にはまった子どもたち
自閉症・注意欠陥多動性障害と診断されている
子どもたちが急速に増えている!
 昔、自閉症は2000〜5000人に1人、注意欠陥多動性障害(20年以上前までは微細脳損傷といわれた)は1000〜2000人に1人の発症率でした。今、両者とも激増し、自閉症あるいは自閉症類似は100〜200人に1人、注意欠陥多動性障害あるいはその類似は10〜20人に1人と増加しております。どの子どもにもそのリスクはあります。なぜでしょうか。医学が進歩し、子どもの専門家が増え、多くのリスクをもった子どもたちが早く見つかるようになったと、他人事のようにいわれることを私は耳にします。否、本当に増えているとしか言いようがありません。子どもたちが育ちにくくなっているのです。哺乳動物の赤ちゃんは親から離すと生きられません。親とのスキンシップが大切なのです。仲間どうしのふれあいも必要なのです。テレビ・ビデオ・テレビゲームに没頭すると、人間どうしのコミュニケーションがとれなくなります。一方通行の電子機器にはまると、人間として生きることを拒否してしまいます。他人(自分以外の人)の心を思いやることができません。漢字を読めたり書いたりできても、その言葉の意味を理解できません。人間の心(魂)が宿らないのです。
 自閉症は3つの症状から診断されます。1 社会性や対人関係がうまく育っていません。視線が合わない。他人への感心が乏しい。関わられるのを嫌がる。いっしょに遊べません。2 言葉を含むコミュニケーション能力が育っていません。喃語、ジェスチャー、指さしなどを欠いている。話し言葉が育たない。言葉が出てもその意味を解せない。3 反復的または常同的な行動。物に執着する。ぐるぐる回る。発展性の乏しい遊びの反復。
 自閉症という名称は、今から60年前(1943年)アメリカの医師カナー先生が情緒障害の一つとして発表し、その後1964年イギリスのロッター先生が疫学調査をおこない、2500人に1人の発症率であることを報告しています。その後急速に増え続けて、現在20〜30倍になっているのです。私が出合う「新しいタイプの言葉遅れ」のうち対人関係が育っていない最も重い言葉遅れの子どもたちは、ほとんどが自閉症と同じ症状を呈しているのです。そして、みんなテレビ・ビデオ・テレビゲームなどにはまっています。わずかですが、テレビ・ビデオを好んで見ていない子どももいます。赤ちゃんのころ親が積極的に関わらず、1人遊びにならされてしまった子どもです。また、生まれて間もなく絵カードやフラッシュカードをずっと見せられた子どももいます。「新しいタイプの言葉遅れ」の子どもたちが自閉症児と異なるのは唯一、早く見つかると話し言葉が育って回復するということです。
 人間の赤ちゃんは1年以上も早く産まれてしまったのだとよくいわれます。その間応答的環境におかれ、人間らしく育てられてはじめて、言葉でコミュニケーションのとれる人間に成長するのです。オオカミに育てられたアマラとカマラは、言葉はしゃべれなかったけれども生きる術はちゃんと学習していました。
 テレビ・ビデオなど電子機器に囲まれて育つと、どうなるでしょうか。赤ちゃんが微笑みかけたり、声を出したり、指さしたら、テレビはどう答えてくれるでしょうか。私はテレビっ子の生後3カ月児あるいは4カ月児にたくさん出合います。表情が乏しく、視線が合わず、声を出さず、笑わないのです。まさにサイレントベビーなのです。テレビを消すと1〜2週間で見事に変化します。表情豊かな赤ちゃんに生まれかわります。私と出合わず、サイレントベビーの状態が1年間続くとどうなるでしょうか。みなさんよくわかっていただけると思います。さらに、もう一つの場合を述べます。生まれて1年間応答的環境の中でうまく育っても、その後職場復帰などでテレビ・ビデオ視聴に1日7〜8時間はまると、半年後には言葉を失い、サイレントベビーになってしまうこともしばしば経験します。自閉症の書物に折れ線タイプと書かれているのに合致します。
 人間らしさが育つコミュニケーション能力については、生後1年間のみならず2〜3年間は流動的で壊れやすく、そして生涯にかかわる重大なことなのです。赤ちゃんの頃の応答的環境での実体験によって、頭脳の脳細胞が連絡しあったり、増加したりして、次から次へと新しい神経回路が出来ていくのです。三つ子の魂百までといいますが、生まれて3年間脳重量は急速に増え、大人の80%を占めます。親あるいは保育者とのスキンシップ、全身を使った遊び、仲間とのふれあいが脳を豊かに育てるという人生で最も大切な期間なのです。
 次に、注意欠陥多動性障害についてですが、新しいタイプの言葉遅れのうち重くならなかった子どもたちがあてはまります。軽いですから数も多く、20〜30人に2人います。乳幼児向けのどんなにいいテレビやビデオを見せても、その過剰は会話、言語理解、対人関係ともに遅れてしまうのです。
 終わりに、テレビ・ビデオ視聴による言葉遅れは自閉症類似、注意欠陥多動性障害類似とすることを申し添えます。

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