「絵本フォーラム」23号・2002.07.10
第4回
言葉は育っているが、友人と遊べない子どもたち
―キレる子、乱暴する子、仲間に入れない子―
4歳8カ月 Aくん(平成9年2月生まれ)
 4歳幼稚園へ行き始めました。椅子に座っても、すぐ立ち上がってうろうろして落ち着きません。自分の思うようにならなかったら、物を投げたり叫んだりします。友達と話しができず、叩いたり、突き飛ばしたりしました。4歳7ヵ月、夏休みが終って幼稚園の新学期が始まりました。相変わらず友達と遊べません。10日目、塀を乗り越えて家へ帰り、もう行かないと泣きわめきました。
 母親は、家庭ではいい子なのにどうしたものかと途方にくれて、川崎医大小児科へ紹介されてきました。診では会話は十分通じて、行動異常はまったく見られません。心理相談室でも異常なしとの返事でした。集団生活の中で経験を重ねることで、社会性は育つと言われました。
 ある日幼稚園の先生が家庭訪問しますと、テレビがついており、その側で闘いもののゲームに熱中していました。幼稚園へ行ってくれれば、ゲームしたい放題のご褒美が待っていたのです。
 一人っ子ですが、乳児期すくすく育ちました。1歳「ママ」「パパ」「ブーブー」。1歳8ヵ月「ママちょうだい」「ワンワンきた」と二語文。テレビは一日中ついていました。2歳ディズニーや闘いもののビデオ。3歳テレビゲーム中心の生活で、何不自由なく育ちました。

6歳2カ月 Bくん(平成8年2月生まれ)
 平成14年4月小学校へ入学しましたが、校長先生の話が聞けず、一人で歌詞を口ずさんだり、歩き回ったりしました。教室では自分勝手に落書きしたり、友達に乱暴します。勉強中でも外へ飛び出し、運動場の砂場で一人遊びます。川崎医大小児科へ頬をピクピクさせるチック症のため紹介されました。学校で友達にどう関わってよいか分からないので、緊張してしまうのが原因でした。副担任の先生についてもらって、うさぎにえさを与えたり、草花に水をやったりました。そのうちチック症状はなくなりました。5月連休明けから、朝元気に家を出ても、途中どこかへ行ってしまい、探しまわることが多くなりました。その後、毎日担任の先生が集合場所まで迎えにきて、一緒に登校しています。3歳まで家庭で過ごしましたが、ほとんどテレビ、ビデオづけでした。両親とはよく遊び、なぞなぞ、しりとり遊び、将棋などが得意です。会話は普通に可能で、遠城寺の発達検査では、対人、言語、理解を含め、すべて年齢相応に育っています。しかし、子ども同士の遊びはまったく苦手です。

13歳 Cくん(昭和63年6月生まれ)
 中学一年生になっても、授業中歩き回ります。友達と話が合いません。自分から一方的に喋ってしまい、相手の意見を聞きません。授業中眠ってしまい、熟睡します。嫌いな教科時間は保健室へ行きます。家庭ではテレビゲームをずっとしています。
 5月に入り、頭痛、腹痛を訴え、学校を休みがちになるので川崎医大小児科へ紹介されました。礼儀正しく標準語で喋り、方言が出ません。心理相談室の発達検査では、運動、言語ともバランスよく年齢相応の発達を示しました。しかし、口頭で答える課題で話し始めると止まらないなど衝動性が高く、また、記憶課題で集中力に欠ける結果でした。知的能力と対人関係とのバランスが悪いため、学校での集団行動が難しいと判定されました。
 乳幼児期おとなしく手がかかりませんでした。テレビ、ビデオが遊びの中心で、一人で遊ぶことが多かったといいます。保育園でも友達と一緒に遊ばず、いつもおもちゃが遊び相手でした。買い物に連れて行くと、レジの順番が待てなかったり、好きなものを買ってもらえないと泣きわめいて、母親を困らせました。
 小学校では、授業が始まっても教室の中に入らない、歩き回る、忘れ物が多い、話が飛びすぎる、同じ間違いを何度も繰り返す、自分のものを自分で管理できない、など問題行動が目立ちました。



 話し言葉が十分育っていても、友達と遊べない子や、集団生活が苦手な子がいます。Aくんは集団生活に入ってはじめて友達と遊べないことに気付かされた幼稚園児です。Bくんは、3歳から保育園へ行きましたが、自己中心的で集団生活ができず、学校不適応に陥った小学一年児です。Cくんは、知的能力と対人関係のバランスが悪いため仲間に入れなかった中学一年男子です。3人とも、遊びのほとんどがテレビ・ビデオ・コンピュータゲームに集中しており、同世代の仲間とどのようにかかわってよいのか戸惑っている様子が手に取るようにわかります。大人には話が通じても、同世代の友達には難しいのですね。まして、コンピュータゲームにはまると、どんどん自分だけの世界に迷入し、最も大切な人格形成=人間の魂が育たないのです。自分で自分の脳を管理することを放棄してしまうのです。

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