グランマからのおくりもの

−第3回−
「春たけなはです」保護者の方たちお元気ですか


 私のところには、全国のいろいろな場で、前向きな目線で元気に働いている方たちからのお手紙が届きます。イラクの戦争の行方を気にしながらも、日々自分たちが置かれている場を丹念に紡いで明日に繋げて行かなければならない。そんな思いが込められたお便りや活動の記録ばかりです。
 おとなたちの時間は表向きには大きな変化はありませんが、幼児たちの時間はそうではなく、その中身は刻々と変化し育っています。幼児は、一夜明けて見れば、僅かであったとしても成長の証を見せる、まさに驚くべき心と身体を持つ生命体です。
 今回は、心を育てる絵本の世界に仲間とともに取り組んでいる保育士さんから届いた手紙、また、ある公共図書館に招かれた時に出会ったお母さんが、子どもに読んであげた本の記録を紹介します。このような手紙が届いた日は1日中晴れ晴れの気分です。そうして、育っていく子どもたちに負けないようにと、背筋をのばして街中を歩く私がいます。お仲間同士、よい刺激をもらうことは大切ですね。
 まず、保育士として活躍中の方から紹介しますと、職場で「読書ノート」を取り入れ、読んだ本、その本のあらすじ、子どもたちの反応等の記録が丹念に整理されていました。この記録は他の保育士と交換し、お互いに、これから読む本の参考資料として役立つことでしょう。この場合、いつも広い目線を持つ事を勧めます。とかくマニュアルに頼りがちな今の社会ですが、すべてマニュアル通りに事が進むと思いこまないで、創意工夫を重ねることが大切です。「よみきかせ」の対象にいる子どもたちは、育つ環境も親子の関係も全て同じということは有りえないのですから。子どもたちの守るべき人権の範囲を心得ながら、子どもたちの読書環境整備のための研究を深めること、何よりも読み手の心と聞き手の心が通うことそのための積み重ねが大事です。自分が読んでいなかった新しい絵本に出会うために。
 もう一つの記録は、お母さんが自分の子どもに読んで聞かせた本のノートです。「家計簿はつけなかったけれど、これだけは」と語るお母さんの表情は穏やかで嬉しげで、私の方が、そのお母さんに最敬礼をしてしまいました。
 図書館から借りた日付、返却日、書名、出版社名、定価まで記録されています。大学ノート1冊に及ぶ記録です。このお母さんに育てられ大人になった当人は、このノートを開くと、かつての子ども時代、日々の生活の思い出が、そこに記録された書名とともに、次から次へと浮かび、大人になった厳しい表情がやさしく緩んでいるに相違ありません。その親を怪訝な表情で眺めている子どもの顔まで浮かんできました。そのノートのページを繰る私も、講義をする時のちょっと厳しい表情から、はるかに遠いところをさまよう私になっていたと思います。
 日々を真摯に生きている方たちとの出会いは、私にもかけがえのない喜びをもたらしてくれます。

「絵本フォーラム」28号・2003.05.10

第2回へ第4回へ