情報紙『絵本フォーラム』で10回連載予定の『ほるぷフォーラム紙上絵本講座』です。

子どもの悲鳴が聴こえますか

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時代の大きな流れの中で

 私たちを取り巻く環境は、この数十年のあいだに、急激なスピードで変化しました。ただ、「急激な」といっても、日々、一瞬一瞬という時の流れのなかで生きている私たちにとっては、単純に実感できるものではありません。しかし、現代社会において、この時代の変化を改めて見つめ直すことは、非常に大きな意味をもっているのです。
 いま、子どもを生んでいる親の年齢は、平均すると20〜30歳のあいだぐらいであろうと思います。その20〜30年のあいだに、私たちの社会はどのように変化したのでしょうか。
 大きく社会全体を取り上げてみると、高度経済成長、公害問題、オイルショック、バブル崩壊、急速な情報化など、さまざまな大変化が起こりました。
 そして、それに伴って挙げられるのが、生活用品の急激な発達です。私たちの身の回りを見回してみてください。テレビ、エアコン、冷蔵庫、パソコンなど、便利なものがあふれ、すっかり生活に定着しています。そして、私たちはそれらを自在に使いこなし、非常に快適な生活を送っています。
 このような進歩は、今後も衰えを見せることなく加速を続け、もっと便利なもの、もっと楽しいものが、ますます増えていくことでしょう。昔、想像もできなかったような豊かな生活が現実のものとなり、現在、私たちはそれを当たり前のように享受しています。そして、もっと豊かになることを求め続けているのです。
 しかし、いま、ふと思うのです。私たちはその豊かな生活を手に入れた代わりに、何か大切なものを失ってしまったのではないか、と。もっと豊かな生活を手に入れるために、本当に大切な何かを失おうとしているのではないか、と。
 「時代は大きく変わりました」「昔に比べて、とっても豊かになりました」と言われても、私たちにはピンときません。いまの生活がもはや〈当たり前〉となっているからです。
 それは子どもたちにとっても同じです。子どもたちにとって、それは変化として受け止められるものではなく、「テレビのある生活」「楽しいゲームのできる生活」「パソコンを使って情報が自在に取れる生活」が、完全に〈当たり前〉の生活なのです。
 しかし、私たちはいま、その〈当たり前〉のことを、あまりに〈当たり前〉としすぎてしまっており、その代償としてもっと大切な何かを払い続けていることに気づかずにいるのではないでしょうか。
 そのことが、現代社会の歪みを生みだし、子どもたちの〈育ち〉を壊す大きな原因となっているのではないかと思うのです。

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