ほるぷフォーラム出版『絵本で子育て』に掲載されています。

子どもの悲鳴が聴こえますか

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〈大切なもの〉を取り戻すために…

 現代社会において、家庭から、子どもたちから、親子関係から失われてしまった〈大切なもの〉…。それを取り戻さないかぎり、子どもたちは悲鳴を上げ続け、私たち親は、その悲鳴を聴いてあげることさえできず、子どもたちの〈育ち〉はどんどん大きく歪んでいってしまうのです。
 取り戻すと言ったって、具体的には、いったいどうすればいいの?
 ぜひ、絵本を読んであげてほしいのです。家庭のなかに〈読み聞かせタイム〉をつくってあげてほしいのです。それこそが、子どもに親の愛情を伝えるいちばんいい方法のひとつだと、私たちは確信しています。
 絵本とは、子どもに何かを教えるものではありません。「鳥は何羽?」「リンゴは何色?」「どんなことが書いてあった?」、そういうことを読みとらせるものではないのです。そんなことは、親がわざわざ尋ねなくても、子どもは自然に読みとっています。親が読みとることより多くのことを、子どもは絵本から読みとることができるのです。
 親が絵本を読んであげることによって、子どもは豊かなことばを、想像力・創造力を、そして心をはぐくんでいくのです。  そして、もっと大切なことがあります。絵本の読み聞かせとは、親と子が自然に身体をふれあわせ、心を通わせることのできる時間なのです。いっしょに泣き、笑い、怒るという感動を共有できる時間なのです。そういう時間は、一生の宝物として、いつまでも子どもの心に残ります。そして、親も子どもの心を見失うことなくも、いつまでもあたかく見守ることができるのです。
 そういう親と子が心からつながっている時間を、家庭のなかにたくさんつくってあげてほしいのです。
 絵本を読んであげているとき、子どもたちはきっと目をキラキラ輝かせて絵を見、ことばを聞いているでしょう。絵本のなかに何かおいしそうなものがあったら、手を伸ばして取りに行くでしょう。悲しい場面でお母さんが泣いてしまい、それ以上、読めなくなってしまったら、「お母さん、大丈夫?」となぐさめてくれるでしょう。
 そうした親とこの大切な時間をたくさんつくることで、子どもの心は豊かに、健全に育っていくのです。そして、親と子の信頼、人と人との信頼というものを、心のなかに刻みつけることができるのです。
 そして子どもたちは、それを土台として、自分の人生に向かって大きく、自由に羽ばたいていくのです。

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