ほるぷフォーラム出版『絵本で子育て』に掲載されています。

子どもの悲鳴が聴こえますか

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奪われた三つの〈間〉

 時代が変わってしまったことによる影響について、もうひとつ怖いお話をしましょう。この急激な社会の変化によって、子どもたちから三つの〈間〉が奪われてしまったというお話です。
 三つの〈間〉とは、〈空間〉〈仲間〉〈時間〉のことです。いま、この三つの〈間〉が失われたことによって、子どもたちの〈育ち〉に大きな歪みが生じているのです。
 まず、〈空間〉が失われてしまいました。つまり、遊び場がなくなってしまったということです。昔は、幼稚園や小学校から帰ると、空き地や原っぱにみんなが集まり、遊んでいました。女の子たちは縄跳び、男の子たちは缶けり。あるいはみんなでかくれんぼをしたりしていました。そういう、みんなが集まり、みんなで遊ぶ場所があったのです。しかしいま、空き地にはマンションが建ってしまいました。原っぱには工場が建ってしまいました。そして、家のなかに楽しいテレビやテレビゲームがあふれるようになったいま、子どもたちの主な遊び場は〈自分の部屋〉になってしまったのです。
 そして、〈仲間〉が失われました。いま、ひとり遊びをする子どもが急激に増えています。「一番の友だちはゲーム機」、そういう時代です。また、下級生が上級生に遊んでもらう、上級生は下級生と遊んであげる。そういう異年齢の子ども同士が遊ぶという光景が、めっきり見られなくなってしまいました。逆に、幼稚園のころから〈お受験〉が始まっているような現代においては、「仲間=競争相手」という構図さえ出てきてしまっています。
 それから、〈時間〉も失われました。いま、ほとんどの子どもたちには、学校から帰るとすぐに、学習塾、英語塾、そろばん、習字、ピアノなど、さまざまなスケジュールが待ち受けています。ゆっくりと遊ぶ時間などありません。少しでも時間が空けば、テレビを見たり、ゲームをしたり…。
 つまり、子どもたちから〈ゆとり〉が失われてしまったということなのです。学校から帰ったらランドセルを放り出して、空き地に急行し、友達と時間を忘れて遊ぶ…。昔、存在したそういう〈ゆとり〉が、現代においては徹底的に失われてしまっているのです。
 学校が終わると、ランドセルを背負ったまま塾に急行し、帰ってきたらひとりで食事をとり、夜遅くまでテレビゲームをする…。子どもたちはいま、そんな、いつも何かに追われているような生活のなかで、孤独に戦っているのです。
 塾やおけいこごとに行くのが悪いわけでは、決してないのです。しかし、そのことによって子どもたちが得ているもの、失っているものについて、私たちはもう一度、真剣に考えてみる必要があるのではないでしょうか。

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