えほん育児日記
〜絵本フォーラム第98号(2015年01.10)より〜

楽しんで、感じて五感を磨くことばを育てる

野口 明子(絵本講師)

新しい年を迎え、皆様はこの一年をどのように過ごそうかと思い巡らせていらっしゃるのではないでしょうか。新しい何かが始まる時って新しい自分に出逢えそうで、わくわくしますよね。

 私が絵本講師としての道を歩むことになったのも、「わくわく」を求める気持ちから始まったといえます。私は子育て野口明子をしながら自宅で音楽教室を主宰し、たくさんのこどもたちの成長に関わり、音楽の楽しみを伝え、音楽を楽しむための術を教え、その中で生徒さんから多くを学ぶ毎日を過ごしてきました。

 教室開設から3年目を迎える頃、一つ目の曲がり角がやってきました。保護者の方たちの考え方が変化しているのを感じるようになったのです。レッスンに通う目的として「楽しみ、心を豊かにしてくれる、そんな音楽」から「楽譜が読めて鍵盤が弾ける、学校で困らないための指導」を求められているのだと気付いたのです。目に見えて進歩がわかるのは後者です。それに較べて前者は成果を確認しづらいものです。教室運営上、軌道修正が必要なのかしらと考えに考えました。いや、目には見えないけれど大切なものがある。そこは譲ることはできません。

 そこで私は、エレクトーン、マリンバの子どもから大人の個人レッスンと並行してではありますが、未就園の3歳の子どもたちとおうちの方のための「絵本と音楽遊びの教室」を重点的にやっていこうと決心しました。「わかる・できる」より「感じる・楽しむ」ことを大切にしようと考えました。2004年に「絵本講師・養成講座」を受講し、絵本講師としての歩みが始まりその思いはさらに強いものとなりました。絵本と音楽は生きる楽しみと喜びを人に伝え、共有するものとしていつも私と共にありました。

  今も親子の音楽教室の中では絵本の読み聞かせをたくさんしています。絵本を見て、聴いてそのお話の世界を楽しんで、音楽を聴いて、感じて、五感を磨く。ことばを育てる。 特にわらべうた絵本はすぐにみんなが大好きになります。日本語のリズム、日本語のイントネーション、そして日本の生活文化を表しています。話しことばのリズムはいきいきとしていてすんなりと心に入ります。歌いながら歩いたり、手拍子したり。身体も無理なく反応します。「歌いながら動く。動きながら歌う」。これらのワークをスイッチし、反復することはリズムトレーニングの基礎となります。イントネーションはメロディー。わらべうたが醸し出す2〜3度音程は声域の未発達な幼児でも無理なく発声できます。

  そして教室では、わらべうた絵本だけではなく、さまざまなお話の世界を楽しんでいます。 見ること、聴くこと、感じることを、理屈抜きに感覚的にとらえることを何より大切に考えています。

 早期教育の在り方に心が揺らぐお母さんたちに、「育ち急ぐ必要はありません。まずはじっくりと土作りから。心の根っこにたっぷり栄養を。学齢期に入る前にしっかりと自分の足で立つ事ができるように、土の中に心の根を張る準備をしましょう」、と口がすっぱくなるほど語っています。嬉しいことに、教室で読んだ絵本をお家でもご用意くださって、読み聞かせをされるご家庭が少しずつ増えています。そして音楽講師として所属しているヤマハ神戸センターでは「こどもに関わる方のための絵本セミナー」と題して定期講座を持たせていただいています。受講生は音楽教室の先生方がほとんどですが、絵本の読み聞かせの魅力をお伝えして、一人でも多くのこどもの幸せに繋がればという思いです。
(のぐち・あきこ)

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