私の絵本体験記

「絵本フォーラム」97号(2014年11.10)より

親子を繋ぐ1冊の絵本

高瀨 薫さん(新潟県新潟市)

高瀨 薫さん体験記

 「術後は呼吸を確保する為の太い管が喉に入っているし眼が痛みます。大体のお子さんが暴れるので、大勢で体を押さえつけることになります」。
 今年の夏、生まれつき眼を患っていた6歳の長男が手術を受けた時のこと。前日、医師に呼ばれた私と息子はそう説明を受けた。人一倍怖がりの彼。気が気でなかった。
 説明が終わり病室に戻ると彼は言った。「手術の後、僕が辛い目にあっていたら、『とべバッタ』(田島征三/作・絵、偕成社)読んで」と。持参していた絵本のなかの1冊に『とべバッタ』があった。敵から隠れて生きていたバッタが、ある日、堂々と生きることを決心し力強く遙か彼方に向かって飛んで行くと言うお話。我が家では園の発表会や運動会など、子どもたちにエールを送りたい日に決まってこの本を読む。「分かった。読んであげる」。
 そして、消灯時間。いっこうに瞼が重くならない彼は呟いた。「やっぱり、今読んで」。彼をギュッと抱き寄せた。息子の体にメスが入ることへの不安、試練に立ち向かう弱虫息子へのエール。胸が張り裂けそうな私は、油断したら涙声になりそうで、絞り出すような声でゆっくり読んだ。
 すると、力が抜けたようにすぐ眠った彼。穏やかな寝顔を見て私は思った。「あぁ、絵本が私とこの子の心を繋いでくれている。力になってくれている。絵本で子育てするとはこういうことなんだな」と……。  あれから3か月。元気にサッカーの試合に出かける彼と私は、今朝も『とべバッタ』のページを捲る。
(たかせ・かおる)

前へ次へ