私の絵本体験記

「絵本フォーラム」96号(2014年09.10)より

絵本の時間

書上 朝泰さん(群馬県桐生市)

 「ただいまー」。仕事を終え帰宅、家の中に入ると、ふとんに寝そべっている息子の姿があります。
 息子は小学4年生。再度顔の前で「ただいま」。それまで気づかぬふりをしていた息子が「お帰り」。「ねえパパ、本読んで」、「えっ、今?」本日も息子はいわむらかずお作『14ひきの』シリーズを好んで持ってきます。この本は文字が少なく、疲れていても読むのが苦になりません。こんな時刻に実に気が利いている本だと……。
 自分は忘れていたのですが、僕の奥さんの話だと息子が生まれる一カ月前に栃木県にある『いわむらかずお絵本の丘美術館』を訪れていたようです。このシリーズを息子が好み、幾度か手にとるたびに不思議な縁を感じます。あの時は性別もわからず、まだ名前も決めていなかったので、〈おなかのあかちゃんへ〉とサインを書いて頂きました。ただその絵本は『14ひき』ではありませんでしたけど。(苦笑)
 そして寝る前にもう一冊持ってきます。「次はこれ」『迷路の絵本』。ふとんの上で親(父)子、真剣に迷路や隠し絵探しに没頭しています。しばらくすると台所から「もう寝た方がいいと思うけど」「絵本読んであげるならもっと早く帰ってきて」と奥さんの声がします。全くその通りです。期待に応えてあげようとしてもなかなかうまくいかないものです。それでも親と子で絵本を楽しむわずかな時間の中に、互いの安心感や心の安定を得られていることを実感しています。
(かきあげ・ともひろ)

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