えほん育児日記
〜絵本フォーラム第96号(2014年09.10)より〜

絵本を読んでこころを耕そう

浅越 佐知子(絵本講師)

 「子どものことばかりではなく、自分のやりたいことを見つけていろいろやってみなさいよ」、病院のベッドの上から義母がかけてくれた言葉です。病室の小さな灯りの下で「絵本講師・養成講座」の最終リポートの下書きをしていたときの出来事です。眠っているのだろうと思っていたので、声をかけられたときは驚いてしまいました。自分だけの時間が持てるようになり「絵本の魅力をもっともっと学びたい」と受講した「絵本講師・養成講座」でしたが、第1編が終了してリポートに取り組み始めた頃から両親が続けて入院し、大変な1年でした。講座を最後まで続けられるだろうかと不安になったり、精神的に辛いときもありましたが、家族の協力や絵本講師の先輩からも応援して頂き、最後まで受講することが出来ました。その頃は時間に追われる毎日でしたが、「だいじょうぶ、だいじょうぶ、なんとかなるさ」と現実の難題にも誠意をもって対応できたように思います。そんな気持ちになれたのは、養成講座での講師の先生方のお話しや素敵な仲間に出会えたこと。そして絵本が身近にあり、絵本からの言葉に勇気づけられたからです。絵本を開いて声に出して読んで……。

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 泣いたり笑ったり、そして優しい気持ちになったり。絵本を読むことでこころが耕され、穏やかな気持ちになれると実感することができたのでした。柳田邦男氏の『砂漠でみつけた一冊の絵本』(岩波書店)には《人生後半に自分のために絵本を読むと、深い味わいがあって、人生や生き方についてとても大事なことに気づくものだ》だからこそ、大人こそ絵本をとあります。大人が絵本を読むことでこころ穏やかになり、ゆったりとした気持ちで子ども達や世の中に目を向けることができたら、もっとみんなが笑顔になれるのではないかと感じています。そんな想いと自分自身の体験を通して気づいた「絵本の力」を絵本講師として伝えていけたらなと思っています。

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 先日講座をさせて頂く機会がありました。どんな絵本を持って行こうかなと迷っていたとき、『一秒の言葉』(小泉吉絵本講師 浅越 佐知子宏/著、メディアファクトリー)という詩集に出会いました。《「はじめまして」この一秒ほどの短い言葉に、一生のときめきを感じることがある。「ありがとう」この一秒ほどの短い言葉に、人のやさしさを知ることがある。「がんばって」この一秒ほどの短い言葉で、勇気がよみがえってくることがある。》それぞれ簡単な言葉ですが、誰にとっても生きていく上で支えになってくれる言葉ではないかなと思います。しかし最近はなかなかその言葉を生の声で伝えることが少なくなってきているようです。メールでのやりとりが増え、人間同士の生身の接触や生の声によるコミュニケーションが減り、相手を思いやる感性が育たなくなってきたように思います。確かにメールでも伝えたいことは届けることができます。でもそこにはぬくもりや相手の感情はありません。相手の本当の姿を見失ってしまうのではないかと考えます。絵本の中には素晴らしい言葉があふれています。その言葉を素直に大人も子どもも口にすることが出来たら、心と心がしっかりつながっていくのではないでしょうか。ひとつひとつの言葉を大切にしていきたい。『一秒の言葉』はそのことに気づかせてくれました。《「おめでとう」この一秒ほどの短い言葉で、しあわせにあふれることがある。「ごめんなさい」この一秒ほどの短い言葉に、人の弱さを見ることがある。「さようなら」この一秒ほどの短い言葉が、一生の別れになる時がある。一秒に喜び、一秒に泣く。一生懸命、一秒。人は生きる。》

 「絵本講師・養成講座」の閉講式で修了証書をいただいた後、亡き義母に報告をしました。「ありがとう。これからは絵本講師としてがんばってみます」と。
(あさこし・さちこ)

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