こども歳時記

〜絵本フォーラム94号(2014年05.10)より〜

いのち輝くために

  信州にもようやく遅い春の便りがやってくる頃となりました。このあたりでは、梅と桜とあんずの花が一度に咲き、その後にはりんごの白い可愛らしい花が咲きます。今年は記録的な大雪となり、我が家は1mを超える雪が積もり除雪に大わらわでした。
 でも、冬が長く厳しい分、春の訪れに心躍らせ、花や木の芽のたくましさに感動できるのです。我が子が小さい頃は「小さい春を見つけに行こう!」と山や野原を歩き回ったものです。「春、みーつけた」と一緒に喜び、至福の時を過ごした子どもたちに、そして自然の営みに感謝しています。

  勤務先の図書館では、春休みに大勢の親子がやってきました。ベビーカーを押しながら、小さな手をつなぎながら、そして子どもをお膝に乗せながら絵本を選んだり読んだりしている親子がどうか幸せでありますように、と願わずにはいられません。
 昨年11月に、「長野県保育大学」という研修会で「子どもとメディア」をテーマに実行委員長として関わらせていただきました。昨今、子どもと絵本を考えるときにどうしても避けては通れない「メディア」との関わりを保育士や地域の皆さんと勉強したかったのです。その折に、県内の保育園保護者を対象に大規模なアンケートを実施しました。
 携帯がスマホになったことで、子育て環境は大きく変わりました。授乳中にメディアを操作していた方は8割を超え、家庭内でメディアがついている時間は平均3時間、多い家庭では5時間を超えていました。子育てアプリを使ったことがあるという方も多く、子ども自身がスマホの操作をしている家庭も数多くみられました。赤ちゃんがこの世に生まれてきて、一番初めに接するお母さんが機械に心を奪われていたら、親子の信頼関係が育たず、また子ども自身の自己肯定感も育たないのです。赤ちゃん・子どもたちに必要なのは、お母さん・お父さんそして周りの大人の温かな声とぬくもりなのです。

  『きこえる?』(福音館書店)を手に取ったときは衝撃的でした。機械がどんなに美しい画面で、どんなに多くの情報が得られても、メディアだけで育っていたらこの絵本の音は聞こえないのです。この絵本を見たときに、この音が聞こえる子どもに育ってほしいのです。この音が聞こえる私でいたいのです。

  過日、晴れて大学生になった次男と車に乗っていた時のこと。「お母さん、あの絵本どうした?」「俺に子どもができたら、もらいにいくからとっておいてね」、と。思わず涙が溢れそうになりました。
 絵本の力を信じ、子どもたちの成長する力を信じて、どうか絵本をたくさん楽しみながら子育てをしてほしいと願っています。(いとう・りえ)

伊藤  理恵(いとう・りえ)


『きこえる?』
(福音館書店)

前へ ☆ 次へ