こども歳時記

〜絵本フォーラム93号(2014年03.10)より〜

絵本のちから

 2014年が始まって2ヶ月が経ち、3月がやってきました。皆さま、笑顔で毎日を過ごしていらっしゃいますか?
 毎年思うことですが節目となることが多いこの時期は、環境の変化に伴う手続きや準備に追われることがあります。大人になっても環境の変化というのは心に大なり小なり影響があると思います。年齢によって関わり方は違ってきてもいつも目はかけて……、と思いながら過ごしたいですね。
 
 さて私事ですが、わが家にも環境の大きな変化、節目となる高校受験に挑んだ次男がいます。その次男が夕飯時にふと口ずさみました。
 「宮部、かっこいいわぁ」。『永遠の0(ゼロ)』を読み終わっての感想でした。まだ読んでいなかった私に、感想とともに物語を話してくれました(苦笑)。
 次男の通う中学では朝読書の時間というものがあります。わずか10分間という短い時間ですが、様々な娯楽が氾濫し勉強や部活動にと忙しく過ごしている中学生にとって読書に使う時間があるというのは、再び読書を始めるきっかけとなったようです。教室には担任の先生の本があるそうです。読み応えのある本もちゃんと織り交ぜられていて、自分では手に取らなかったかもしれない本に出会えたこと、本が身近にある環境を作っていただけたことに感謝しています。
 そうは言ってもゲーム大好き、マンガも大好きな次男です。もちろん読書なんて全然しない日も多々あります。でも、本の中でいいなぁと思える人物に出会える。好きだと思える作家さん、文章に出会える。楽しそうに本の感想を話してくれる。そういう感性を持ち得たのは読み聞かせの時間を共有してきたからかも……と自惚れています。

 先日「若年性アルツハイマー病」を患っている女性の番組を見ました。発病してから11年を経た彼女の顔からは笑顔が消え無表情になり、話す言葉も失いかけていました。その彼女が発病前にしていた活動があります。絵本の読み聞かせです。話すことも少なくなっていた彼女にご主人が絵本のフレーズの一部を語りだすと、目が輝き笑顔が戻り、おぼつかない口調ではありましたが一緒に語り出しました。自分の意志を伝えることが困難になっていた彼女が、目を輝かせ語った絵本のフレーズが、胸に残りました。
 私にも思い出の絵本があります。『いちごばたけのちいさなおばあさん』(福音館書店)です。母が私に読んでくれた絵本の中で一番のお気に入りでした。いちごばたけの下に住んでいるちいさなおばあさん。春先近くなるといちごに色をつけるための準備を始めます。いちごの色を作るために一生懸命働くおばあさんが大好きでした。特におひさまの光を浴びた水に、掘り出した緑色の石を入れるとパッと赤い色ができあがる場面が大好きで、ワクワクしたのを覚えています。
 私が母にこの絵本を読む日が来るかもしれません。その時母は目を輝かせて楽しんでくれるでしょうか。一緒に口ずさんでくれるでしょうか。思い出を語ってくれるでしょうか。

        
倉冨 展世(くらとみ・のぶよ)


『いちごばたけの
ちいさなおばあさん』
(福音館書店)

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