えほん育児日記

えほん育児日記   えほん育児日記

~絵本フォーラム第90号(2013年09.10)より~  後編

 釜石市「鉄の歴史館」駐車場にて  4月28日 ①

 昨晩は、釜石市内のビジネスホテルに泊まりました。ホテルの周辺を何度も歩きましたが、釜石市内の沿岸部も被害が大きいと感じました。特に、路面のアスファルトや歩道に付けられた「キズ」の数々が、津波の力の生々しさ、恐ろしさを静かに物語っていました。巨大で重たいものが地面を削っていった痕という印象でした。
 昨日お誘いを受けた大槌町のお花見の会イベントまで、少し時間があったので、町の歴史を知るため、市内の高台にある「釜石市立鉄の歴史館」へ向かいました。その駐車場で『ひょっこりひょうたん島』の歌詞と楽譜が書かれた石碑(=写真)を見つけました。
 昨日、山崎さんのお父さん(大槌町の仮設商店街福幸きらり商店街の会長)から、『大槌町の沖にある「蓬莱島」が、 ひょっこりひょうたん島のモデルだよ。』と伺っていたので、釜石市の歴史館でこんな石碑と出会えるとは思いませんでした。(ひょっこりひょうたん島のモデルとしては、広島県尾道市の生口島の西に浮かぶ「瓢箪島」も有名だそうです。でも、こちらには原作者・井上ひさしさんとのゆかりがあるので、本当のモデルは大槌町の「蓬莱島」なのでしょうか・・・・・・。)
 
 まるい地球の水平線に/なにかがきっとまっている/苦しいこともあるだろさ /悲しいこともあるだろさ/だけどぼくらはくじけない/泣くのはいやだわら っちゃおう/進めひょっこりひょうたん島/ひょっこりひょうたん島/ひょっ こりひょうたん島(井上ひさし、山元護久/作詞、宇野誠一郎/作曲)

 人を前向きにさせてくれるこの歌の歌詞が、今この土地で暮らす皆様の日々の生活を励まし、心を強く支え続けている言葉のように感じました。

 小鎚小学校・お花見の会にて  4月28日 ②

 大槌町を流れる二つの河川のうち、西側にある「小鎚川」沿いの道を登り、町内各地の仮設住宅を印した地図にも載っていない山の奥へと進みました。道中、大小さまざまな仮設住宅の集まりが並んで建っていました。仮設の幼稚園には鯉のぼりが元気に大海原を泳いでいました。
 ほどなくして着いた小鎚小学校(小鎚第3仮設団地)で開催されていたお花見の会には、すでに多くの方々が集まっていました。天気はよかったのですが、あいにくの強風で、バーベキューや豚汁で使った取り皿が時々飛んでしまいましたが、外で桜の花を見ながら、皆で食事をするのは格別だな、と思いました。
 食事の後で、絵本の読み聞かせの時間を頂きました。山崎さんの親戚の子どもたち3人(小5・小4・小2)、それに大人の方お2人に絵本を読ませて頂きました。
 今回持って行った絵本の中で、僕がまず読ませていただいたのは、『まがなった』(砂山恵美子/作、ポトス出版)でした。津軽弁の絵本で緊張しましたが、笑ってくださったのでホッとしました。そして、『おやすみやさい』(わたなべあや/作、ひかりのくに)、『世界中のこどもたちが』(篠木眞/写真、新沢としひこ/詞、ポプラ社)、『はるじゃのばけつ』(白土あつこ/作、ひさかたチャイルド)、『おへそのあな』(長谷川義史/作、BL出版)、『おかん』(平田昌広/文、平田景/絵、大日本図書)、『いたいのいたいのとんでいけ!』(山岡ひかる/作、絵本館)、『BLUE TO BLUE』(駒形克己/作、ONE STORKE)を読みました。これはサケの一生を描いた作品です。大槌町の大槌川は、サケの遡上とサケ漁で歴史的に有名とのことで選びました。
 今回、お伝えしたかったテーマのひとつに「手当て」がありました。転んでひざを打った子どものひざに、お母さんやお父さんが手を当ててさすってあげる、それも愛情表現の一つ。子どもの頭を撫でてあげることも、手当ての一種かもしれません。触れてあげて、手の温もりを伝えてあげるだけでも子どもたちはとても安心します。そんなことを絵本を通じてお伝えできたらな、と思っていました。
 実は、僕だけではなく、子どもたちも絵本を読んでくれたのですが、その内の1冊が、『チチンプイプイ いたいのいたいの とんでけー』(おおともやすお/作、童心社)でした。「手当て」をテーマにと考えて持っていったものでした。小5と小4の二人の女の子がとても上手に読んでくれました。僕はまた涙が出そうになりました。

 僕の想いが伝わったかどうかはわかりませんが、皆さんが笑顔でいてくださったので、ただそれだけで感謝の気持ちでいっぱいでした。この「一期一会」の出会いで生まれた「縁」を大切にしたいと思いました。

 大槌町吉里吉里地区カフェにて  4月28日 ③

 小鎚小学校・お花見の会の帰りに、山崎さんから教えていただいていた「Cafe&
Bar Ape」というカフェへ立ち寄ってみました。大槌町の中心部からひと山越えたところにある吉里吉里地区も、このカフェの周りは何一つ建物がありませんでした。
 ここは、この地区出身のミュージシャン達が、震災後こちらへ戻って、実家があった場所に廃材と鉄パイプなどを使って建てたお店だそうです。こちらのカフェで、僕はぼんやりと今回の旅を振り返りました。様々な光景を思い出すと、頭の中は複雑ですぐに整理がつきそうにありません。
 今回お世話になった山崎さんとそのご家族をはじめ、出会った皆様の温かい心に助けられ、貴重な経験をさせていただきました。こちらで教えていただいたことを胸に、これから少しずつ気持ちを整え、絵本講師としての活動に活かしていきたいと思っています。
 大変拙い長文の日記を、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
                       (きやす・たかひろ)

(編集部注)岩手県大槌町は8月12日、『蓬莱島』を町指定文化財の「記念物」と「名勝」に指定しました。


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