えほん育児日記

えほん育児日記   えほん育児日記

~絵本フォーラム第89号(2013年07.10)より~  第 1 回

わたしのこと


 我が家には3人の子どもがおり、子どもたちは、それぞれ小学校4年生と2年生、幼稚園年中組である。上と下が女の子、真ん中が男の子だ。10年前、私の子育ては、できないことが多いお母さん、というところから始まった。20代の後半に体をこわした私は、結婚に伴う転居を機に退職し、姫路で暮らし始めた。当時の私は普通では考えられないほど体力がなく、それに加えて、季節の変わり目には咳喘息の発作、春から秋にかけては日光誘発性偏頭痛が頻発し、日中の屋外での行動が制限された。それでも、仕事を辞めてからは、家の中で自分の体調に合わせて生活することができたため、寝込む回数は少なくなった。そんな私が母親となったとき直面したのは、子どもを思うように外に連れ出してやれないという現実だった。

 外に出たい盛りの1歳の娘が、ベランダから首を曲げるようにして、当時住んでいた団地の敷地内の公園から聞こえてくる子どもの声に耳を傾けていた小さな後ろ姿は、今も忘れられない。見ていられず、無理をして昼間子どもと外へ出ると、夕方から寝込んでしまう。その繰り返しであった。一緒に絵本をいっぱい読んで、好きなだけままごとやお絵かきの相手をしてやれて、それだけでいいのなら、私にとっては十分なのだが。幼い子どもが外遊びができないまま育っても発育に影響はないのか。他の子どもたちが遊んでいるところへ行って遊びたいという子どもの欲求をかなえてやれなくていいのか。当時の私は、本当に悩んでおり、どうやって答えを出したらいいか考えあぐねていた。

 そんな時、自宅近くの会場で、保育の研究会が開かれることを知った。一般の人も参加できると聞いて、二人目がお腹にいる時であったが、思い切って申しこんだ。参加した分科会で、保育士さんたちに、自分の状態と、子どもがどのくらい外遊びを必要としているかを相談した。すると、その場にいた保育士さん全員が、「お母さん、無理することないですよ」と声をそろえて言ってくれた。「子どもと部屋の中で遊ぶのが苦痛なお母さんもいれば、外遊びが苦手なお母さんもいる。あなたは部屋の中で子どもと遊んでやれるのだから、それだけで十分。子どもはちゃんと育つ。お母さんが無理をしないのが子どもにとっても一番いい」と。子育ての先輩であり、子どもの専門家である保育士の方々の言葉のあたたかさと力強さが、頑張ってもできないことのある母親である私の子育てを、ずっと支えてくれたと思う。

 その後、子どもが二人になる頃には、戸建ての今の家に引っ越したため、子どもだけでの庭遊びもさせてやれ、子育てはずいぶんと楽になった。それでも、我が家の最優先事項は、お母さんが寝込まないようにする、ということであった。子どもたちは幼い頃から、実際に母親が何日も寝込んでしまう姿を見て育ったため、そのことを身にしみて理解しているようだ。夫と子どもには、本当にたくさんの「ありがとう」を言ってきたなあと思う。

 地域社会や大家族のしがらみもなく育った世代の一人である私は、自分の努力で望みを実現させることになれている。もし、私にもっと体力があったら、自分さえ頑張ればできるという思いで、無理をして子どもにいろいろなことをしてやろうとしたかもしれない。しかし、その無理がきかないことがいい意味で制限となって、本当に必要なことを厳選して行う子育てのスタイルを確立してこられたように思う。いくら自分でしたくても、できないところは人に頼ったり、あきらめることができるようになったのは、私自身の大きな変化であった。体をこわしたことで得たものは大きかったとつくづく思う。それを幸いとできたのは、夫をはじめ、ありのままの私を認め、受け入れてくれる人がまわりにいてくれたからだと心から感謝している。

 10年以上も、体に気を使いながらやってきた私であるが、近頃は少しずつ丈夫になってきており、今年はずいぶん元気に過ごせている。遠出は無理でも、子どもたちを地域の催しや半日遠足に連れ出してやれる喜びは、長い間、そんなことが当たり前にできる母親でなかったからこそ、本当に大きい。しんどかった最中には思い至らなかったが、きっと誰にでもできることと、できないことがあるのだろう。家の中での日常生活を丁寧に過ごすという私のスタイルはこれからも変わらないが、できることが増えるのは嬉しい。今年の夏は、子どもたちと一緒にどんなことができるか、とても楽しみである。

                         (なかむら・ふみ)

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