若葉を揺らす朝の風が爽やかな季節です。
子育てをしていた時期は、体内時計が早めに作動するようにしていました。しかし、学生時代は朝寝坊でした。
毎朝、母に叱られる私に祖母が「寝るのにも体力がいる。元気な証拠よ」とかばってくれました。そのDNAでしょうか、次女も朝が弱いタイプでした。
朝食の卵を溶きながら「おきなさい!」、焼きながら「起きなさい!!」と最初は優しい声から厳しい声になり、最後は階下から娘の寝室めがけて大音響の怒鳴り声「起・き・な・さぁ―――い!!!」でやっと起きてきました。
叫び声の音量に驚き、まだ起きてこなくてもいい家族が起きてくることもしばしばありました。
あの頃のことを娘は、「だんだん声色が変わってくるのが目安で、『これは本気で遅れそう』の声に危機を感じたら起床していた」そうです。
私は人間スヌーズだったようです。
『メアリー・スミス』(アンドレア・ユーレン/作、千葉茂樹/訳、光村教育図書)。
イギリスに実在した人物・メアリー・スミスは、星がまだ中天に残る夜明け前に家を出て、人を起こしにいくのが仕事です。信頼できる目覚まし時計がない時代に「ノッカー・アップ」(=目覚まし屋)、といわれる職業がありました。
かたいゴムチューブに乾いた豆を込めて窓をめがけて吹き矢のように飛ばし、豆が窓に当たった「パチン!」という音が目覚ましの音です。
起こしてもらった人は、ノッカー・アップに窓から顔を見せなければいけません。それを確かめてから彼女は次の家に向かうのです。
「パチン!ピチ!パチ!」の音で目覚めたら、音のなる方向に必ず人の顔があります。
笑顔でことばを交わし、朝一番の気持ちをノックしてもらう。
人によって豆をならす音には違いがあります。一度は起きたのに、再び眠ってしまった車掌さんの鼻の頭へは、「ポツン」とやわらかにノックします。ノックをするにも愛情がいるのです。
講座終了後、子育て中のおかあさんに「ストレスが子どもに向かっていましたが、絵本を読んでもらって気持ちが楽になり、すっきりしました」と感想をいただくと、とてもうれしいのです。
思いを素直に言葉で表現できない人の気持ちを「とん とん とん」、とノックする絵本はノッカー・アップです。
『メアリー・スミス』は5歳の孫も大好きな絵本です。メアリー・スミスが、娘に豆飛ばしの特訓をして大笑いをしている場面を見ながら「メアリー・スミスごっこ」をします。
ストローに豆を込めて飛ばし合いをするのですが、黒豆、小豆、大豆といろいろ試しましたが、まだ勢いよく飛んでくれる豆に出合っていません。
表紙のタイトル文字は、時間と争って忙しくしている足のようにも見えます。
私は、子育て中のバタバタしていた時代の足から、今は太くたくましいノッカー・アップの足に取り換えっこして、今日もまた、絵本を抱えて出かけます。
大西 徳子(おおにし・のりこ) |