えほん育児日記

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~絵本フォーラム第87号(2013年03.10)より~  Vol.5

子は宝、子は魔法の薬

 今年も周囲では胃腸風邪やインフルエンザが流行しています。我が家も長男から次男、私へと胃腸風邪にかかりました。もともと身体が強くはなく小児喘息を持つ長男。しょっちゅう熱も出し小さいころ毎週のように小児科にかけ込んでいました。小学校に入り幾分か強くなったものの、一度体調を崩すと長引きます。今回も数日学校をお休みし、ようやく回復してきた日の病院の帰り、お腹もすいていたし息子も元気だったので近くのうどん屋で昼食をとりました。息子は壁に掲げてあるメニューを一つ一つ声に出して読みながら「メニューの漢字全部読めるようになったー!」と嬉しそうにしていました。二人だけで外で昼食だなんて、ちょっぴり贅沢でなんだか新鮮でした。幼稚園から帰宅した次男に「広大。今日な、お母さんとうどん食べに行ってん。いいやろ」と自慢気な長男。次男は「ずっるー。お母さん、今度広大が幼稚園お休みするときもうどん屋!ね」と。「はいはい」と適当に返事をしつつ、幼稚園も学校も休んで欲しくはないし病気にならないで欲しいけれど、自分だけのちょっと特別なことって嬉しいんだろうなと感じました。翌日、案の定うつったようで次男も腹痛に。「なんも食べたくない。うどんもいらない。おかゆもいらない。おじやもいらない。アイスだけ食べたい」と無茶苦茶な要求の次男。うどん屋に行くこともなく、二日で回復し元気になりました。そんななか、台所にいた私に、「これお母さんに」とパジャマ姿の次男から賞状をもらいました。《しょうじょうあなたはいつもじょうぶなひとですね》と書いてありました。面白い文章で、でもいつもいい言葉をプレゼントしてくれる次男。ありがたく頂きました。が、その二日後私もダウンしてしまいました……いつも丈夫とは限らないのです。
 今回の風邪はとにかくお腹が痛くて夜中に何回もトイレに駆け込む息子たちでした。痛そうにうずくまるのが、余りに可哀そうで横に添い寝をしてお腹をさすり続けました。私も小さかった時お腹が痛くなるとよくこうして子守唄を歌ってもらいお腹をなでてもらったなーと思い出しながら。息子たちもお腹が温まり痛みも和らいでくるのか安心したようにスースーと寝息を立てていました。数時間して「お母さん、お腹さすって」と起こされ、半分寝ながらさすり手が熱くなるのを感じました。翌朝「お母さんがなでると暖かくなって痛くなくなるねん。魔法みたい。すごいなー」と息子に言われ 改めて私も母親になったんだなあと実感しました。(母や、祖母といった人の手には厚みとぬくもりがあり、どうも自分の手は薄っぺらくウソ臭い手のような気がしていたので……)

             *   *   *

 胃腸風邪も過ぎ去り、数日後、生徒指導をされていたという元中学校の先生のお話を聞く機会がありました。まさに金八先生のような先生で、お話に引き込まれました。反抗する子どもたちに対してまっすぐ向き合い、子どもたちを受け入れ指導されてきた先生のお話に納得し通しでした。「『手のひらは魔法の薬』です。昔のお母さんはさするだけでよかった。お腹が痛い時、優しくさすってくれた。あの手のひら。今の子のあらゆる悩みや痛みも、心をさするだけで治るのではないでしょうかね」、とおっしゃったことに心から納得しました。つい先日まさに「お母さんがなでると魔法みたいに痛くなくなる」といった息子の言葉が思いだされました。心をさするなんて物理的に無理な行為かもしれないです。けれども、日常生活でどれだけ感情を揺さぶられ、うれしい、楽しい、悲しい、腹立ち、感動、怒り、喜び、奉仕する気持ち、敬う気持ち、優しい気持ち。「うれしいねー」「たのしいねー」「やさしいねー」多少オーバーなくらい親がいうことが子どもに伝えられる感情でもあり、またそういう子どもの気持ちを一緒になって共有できたらきっと心をさすってあげられるのだなと思うのです。これから先、来るであろう多感な思春期、青年時代、かまってほしくない、そっとしておいてほしいという時期、そこそこ理解し、そこそこ距離をもちつつ見守ることができればいいなと、(はたしてできるのかどうか)。絵本を子どもと読みながら、同じ時間空間を共有し、毎回何か発見があり、きっとこれも心をさすっているのかななんて感じたり。日々何気ない行為をもっと大切に常に感謝の気持ちを持っていきたいなと思います。手のひらに魔法が宿っていることを信じて。
 そんなことを考えている私の傍らで、次男が姿見に向かってじゃんけんをしています。ケラケラケラケラ楽しそうに笑っています。「なんかね、おもしろいねん。ずっとあいこやねん!」そりゃ、そうだ。鏡だもん。いろいろな子どもの発想が私の心をさすってくれています。子は宝、子は魔法の薬ですね。

                          (かとう・みほ)

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