こども歳時記

〜絵本フォーラム86号(2013年01.10)より〜

皆さんに笑顔と幸せが届きますように!

 新しい年が明けました。年末年始に帰省された方も多いことでしょう。迎えてくれる家族や友人がいるのは、本当に嬉しいことですね。

 今では懐かしい思い出ですが、長女が幼い頃、飛行機と特急列車を乗り継いでの帰省は大変でした。おまけに、長女は場所見知りや人見知りをするので家にいる時より手がかかり、私は実家でのんびりするどころではありませんでした。ぐずる娘を抱っこしたりおんぶしたりして、私はよく子守唄を歌ってやりました。『子どもにうたってあげる こもりうた ねんねんよー』(ましま せつこ・え、童話館出版)の中で気に入った歌を覚えて歌ってやると、夜泣きした時でもすーっと寝入ってくれるので助かりました。
 特に思い出深い歌は、「ねんねんねやまの こめやまち」です。

♪ねんねんねやまの こめやまち こめやの 横丁をとおるとき ちゅうちゅう ねずみが ないていた なんのようかと きいたらば 大黒さまのおつかいに ねんねした子の おつかいに ぼうやも はやく ねんねしな 大黒さまへ まいります〜
 
 長女を寝かしつけるのに重宝した歌ですが、次女に歌ってやると、ちゅうちゅう ねずみが〜あたりで、怖がるのです。この違いはどうしてかと自分の記憶を整理すると、長女には0〜2歳のころに寝かしつけるときに歌ったのに対し、次女とは3歳以降に遊びながら一緒に歌ったという違いに気付きました。

 実家は古くて、私が子どものころには、天井裏で猫とねずみの大運動会が繰り広げられていました。そんな思い出話を子どもたちにしてやったので、今でも帰省中に天井裏で物音がすると、ねずみだ! と大騒ぎになります。さらに、実家の床の間には、木彫りの大黒様が鎮座しているのです。その大黒様のところにねずみがやってくるのだと、次女は思っていたようです。
 その大黒様は、木彫りの縁起物を好んだ祖父が旅先で買い求めたものだと知ったのは最近のことです。祖父が縁起を担ぐ人だったとは知らなかったので、父から聞いて驚きました。また、玄関には、大黒様と恵比寿様のお顔が並んだ大きな額も掛っています。これは信心深い祖母が買ったものと聞いて納得するのと同時に、「縁起がいいのよ」と嬉しそうに眺めていた祖母の顔を思い出しました。縁起を担ぐという点で、祖父母は似たもの夫婦だったのです! 私の中では、新たな発見でした。一緒に生活していた時には気付かなかったことに、気持ちが向いたもう一つのきっかけは、『どんぶら どんぶら 七福神』(みき つきみ・文、柳原 良平・画、こぐま社)を読んだことでした。
 「どんぶら どんぶら なみわけて/どんぶら どんぶら 宝船/あれに みえるは しちにんの/ふくの かみさま  七福神」と始まる語呂のいい数え歌が自然と口から出てきて、体がぽかぽかしてきます。宝船に乗り込む七福神の満面の笑顔につられ、笑みがこぼれてきます。祖父母に読んであげたら、縁起がいいと喜んでくれただろうな。祖父にとってはひ孫にあたる次女が、祖父の買った大黒様と天井裏の物音からお話を膨らませているなんて、何十年後かにそんなことになるとは、当時の祖父は思わなかったでしょうね。そんなふうに、在りし日の祖父母に思いを馳せ温かな気持ちになれたのは、きっと、七福神の御利益なのでしょう。
 絵本で初笑い! 皆さんに笑顔と幸せが届きますように。

       
        
岡部 雅子(おかべ・まさこ)


『子どもにうたってあげるこもりうた
ねんねんよー』
(童話館出版)

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