こども歳時記

〜絵本フォーラム85号(2012年11.10)より〜

読書の秋に寄せて、子ども達と共に

 数年前まで、11月はちょっと憂鬱な季節でした。なぜかというと、クリスマスのプレゼントを手作りしなければならないからです。と言うのも、現在小3の息子が通っていた幼稚園では、クリスマス会に本物の(!?)サンタクロースがやってきます。そして子ども達一人ひとりに、大きな白い布の袋からプレゼントを出し、手渡してくれます。そのプレゼント(我が子分)を手作りで準備しなくてはならないのです。
 11月に入ると、園から2枚のお手紙が届きます。1枚は松岡享子著『サンタクロースの部屋』の抜粋。「幼い日に、心からサンタクロースの存在を信じることは、その人の中に、信じるという能力を養う。幼い心に、不思議の住める空間をたっぷりととってやりたい」というものです。もう1枚はプレゼントとカード作成についての詳細です。かくして、親は我が子の心に「サンタクロースの部屋」を作るべく、我が子が喜ぶであろうものを手作りで、あまり資金をかけずに、愛情を込めて作り上げる準備を始めるのです。
 松岡享子氏の著書は入園前から愛読していましたので、初めてそのお手紙を読んだときには「こんな考え方をする園に入れて、本当に良かった!」と感動したものでした。しかしふと現実に返ってみると、大切な大仕事が待っています。物造りや絵のセンスが皆無である私にとって、子どもを喜ばせるものを作るということは大変な仕事でした。毎年、期日ギリギリに何とか作り終えてはホッとしたものです。
 この絵本を読んだときに、即座にこの幼稚園時代の行事を思い出しました。そして「このお母さんがプレゼントを作ったら、すぐに子どもにバレてしまうな」とクスッとしながら思ってしまいました。『おかあちゃんがつくったる』(長谷川義史/さく、講談社)という絵本です。
 お父ちゃんが亡くなって、お姉ちゃん、お母ちゃんと3人で暮らしているぼく。お母ちゃんはミシンの仕事で家計を支えています。「あれ、こうて」とぼくが言うと、お母ちゃんは「そんなん、つくったる!」とミシンで何でも作ってしまいます。その仕上がりが思っていた品と一味も二味も違っていて、みんなに笑われて恥ずかしいぼく。ある日、父親参観のお知らせをもらってきたぼくは、思ってもいないとんでもないことを口にしてしまいました。そして、おかあちゃんのとった行動とは……。胸がせつなくなり、心温まり、家族っていいなと心から思える、やさしいユーモアで包まれた絵本です。
 プレゼントと言えば欲しいおもちゃを買う、というのがあたりまえのようになっている現代ですが、このおかあちゃんのように、愛情のこもった力作を作り上げてみたくなりました。皆さんも今年のプレゼントは手作りにしてみませんか? まずは参考に、このお母ちゃんの愛情こもったミシン捌きをぜひご覧になってください。我が子への愛、母親への愛、いろんな愛情が沸き起こり、寒い季節を忘れるほどに心温まることと思います。

中村 利奈(なかむら・りな)


『おかあちゃんがつくったる』
(講談社)

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