■故中川正文先生を「偲ぶ会」


 10月13日は中川正文先生が、彼岸に旅立たれて1年になります。
 その一週前の7日、『絵本で子育て』センターの事務局で、「偲ぶ会」が催されました。
 事務局のあちらこちらの壁には、在りし日の先生の写真数葉(主に「絵本講師・養成講座」の講座写真)と、先生揮毫の「色紙」が掲げられ、訪れた人は遺影の前で手を合わせていました。急拵えの小さな祭壇には香が焚かれ、遺影の横には季節の花が匂っていました。
 ビールで献杯の後は、各自が先生との思い出を語り始めました。語る話は次から次へと……尽きることはありません。しかし、時間は容赦なく流れます。
 「偲ぶ会」は、終了予定時間を1時間半も超過して7時30分にお開きとなりましたー閉めるのに「開く」とは何事だー(中川先生の声)。
 さらに、先生の声は聴こえてきます。
 《また、君らはワシの事をだしにして、楽しそうに酒を呑んどる。まぁ、いいか。しかし、家庭に「絵本を届ける大切さ」は忘れてはいけないよ。学習に励みなさい! ワシはこれから、少し本を読んで寝ることにする。では……》


■『戦後史の正体』(孫崎享/著)が ベストセラーに
 前号(9月10日)で紹介した『戦後史の正体』(孫崎享/著、創元社)が発売3ヶ月で20万部を超えるベストセラーとなっている。続いて出版された『アメリカに潰された政治家たち』(小学館)も売れ行き好調のようだ。喜ばしい限りだ。
 しかしベストセラーというものは、往々にして「売れている本」であり「読まれている本」ではない、というのが通説である。説を覆す本であることを祈りたい。
 それにしてもマスメディアの冷淡さには腹立たしい思いだ。どこも(管見の及ぶ限りであるが)まともに書評で取り上げず、「無視」を決め込んでいる(何か後ろめたいところがあるのかしら)。
 同書が紹介されていたのは、毎日新聞(9月25日夕刊、「現代をみる、ノンフィクション時評」)と朝日新聞(9月30日朝刊、読書欄「売れている本」)である(後者の書評は、胡散臭い代物である)。


■消費税は「悪魔の税制」である
 消費税増税法案は、民自公の3党の談合で成立(8月10日)した。当時、常軌を逸し「大本営発表」に明け暮れていたマスコミは、その後に行なわれた民主・自民両党の代表者(総裁)選に軸足を移し、茶番劇に多くの紙面を割き「消費税増税」についての記事は消えた。消費税増税法案成立直後は、予想される影の部分を「アリバイ作り」のように書いていたというのに……。
 そんな折、消費税についての見事な「解説本」が出版された。植草一秀、斎藤貴男両氏の対談本「消費税増税『乱』は終わらない」(同時代社)である。
 本書を一読すると「消費税」という租税制度の欠陥と欺瞞の本質がよく理解できる。消費税と言えば、多くの人が「買い物をしたときに払う税金」、と単純に考えているのではないか。それはそれで間違いではないが、巧妙に詐術された「悪魔の構造」に読者はビックリするに違いない。まさに「消費税の正体」を暴いた、かつ目に価する書籍である。多くの読者に届くことを願わずには、おれない。


連載「神話の陰に 福島原発40年」を読んで〈2011年6月1日〉

 朝日新聞「神話の陰に 福島原発40年」(5月25日〜6月1日)の8本の検証記事のスクラップを前に、しばし沈思する。「安全神話」がどのように浸透していったかを追った記事は、周到な取材で記者の筆圧も強い。今更ながら蒙を啓いてくれる記事も多々ある。だが、しかし、と考える。何かが欠けている。決定的に何かが欠落しているのではないか、との疑念が払拭されない。
 それは連載1回目《「伏魔殿」変わらぬ原子力村》《産・政・官・学…広大な「村」》に見出すことができる。「原子力村」で欠落しているのは「マスコミ」ではないのか。この貴重な連載記事は自らを「村外」において書かれている。マスコミが「神話」の伝播・浸透に果たした役割は決して小さくない。広報・掲示板とまでは言わないが、新聞をはじめとするマスコミが「神話」の水先案内を務めたことは疑う余地がない。その罪業を摘出する営為が見えないから記事が「画竜点睛」を欠いている印象を与えている。まことに残念だ。
 神話の浸透によって引き起こされた今般の「人災=原発事故」の収束は、神話に踊った人間の生存期間をはるかに超えて子々孫々に引き継がれていく。人智の及ばない「魔物=原発」に手を出した先行世代の罪は限りなく重い。そのような意味においても、マスコミの果たした「役割」を検証してほしい。
 「総集編」が用意されているならば、ありがたいことである。また、メディアの衰退は、インターネットをはじめとする情報媒体の多様化や生活環境の激変なども理由であるが、何よりメディアの発信力(読ませる記事)の弱体化にある、と指摘する識者もいる。検証記事を期待する。


                           2012年10月15日(ふじい・ゆういち)

前へ ★ 次へ